【五輪に愛され続けた男・野村忠宏27】(後編)

 現地で取材中に「北京に到着した」と連絡を受けた。ミキハウスの広報とともに、航空券もホテルも何とか確保したが、観戦チケットは持っていなかった。興味がない、観るはずがないと勝手に考えており現地入りは意外だった。

 「北京五輪を観ようとは全く思わなかった。ただ、奈良の家電量販店でほかのお客さんと映像を観ながら、どこかもやもやした気持ちが拭えず、やはり4年に一度のオリンピックの空気を味わいたいと感じました」

 4年に一度の空気を味わう。野村だから言える味わいのあるフレーズである。親友、競泳・北島康介の平泳ぎ2大会連続2種目制覇を目撃し、これまでの五輪では観られなかった野球、卓球もチケットで観戦した。柔道100キロ級の鈴木桂治を応援するため、決勝ラウンドのチケットを入手したが、鈴木は午前中のラウンドで負けてしまった。

 「五輪は何が起きるか分からない、と観戦者として実感しましたね。柔道会場で、あぁ、自分はここに来たかったんだ、と不思議でした。でもこうも感じたんです。五輪は普通の大会と同じじゃないか、と。初めて五輪を外から観られた経験は本当に大きかった」

 ひざはリハビリ中ではあったが、目線はこの時、2012年ロンドンを捉えつつあった。=敬称略=