【阪急を支えた左腕・梶本隆夫6】(前編)

 新人だった昭和29(1954)年のオールスターで、“打撃の神様”巨人・川上哲治との初対決。「やはり神様といわれる雰囲気を持っている」と梶本隆夫は思った。

 その川上から、グラウンドですれ違いざま、言われた言葉が、頭から離れなかった。

 「速いなあ」

 打撃の神様からそうほめられて、うれしくない投手は誰もいない。

 デビュー1年目。オールスターで川上からかけられた、その言葉が梶本を上機嫌にさせた。なにしろ球界の神様からお墨付きを頂いたのだから…。

 川上との2回目の対決は三回表にやってきた。1死一、二塁の場面だ。カウント1−2と追い込んだあと、投ゴロを打たせた。

 普通にプレーすれば併殺でセ・リーグの攻撃は終了。ところが、あわてた梶本が二塁へ悪送球した。

 初回の落球に続いて、またしても痛恨のエラーだ。周囲から慰めの声が相次いだ。

 「惜しかったね。まともに送球していれば球宴のヒーローになれていたのに…」

 初めてのオールスターは3回無失点だったが、勝敗はつかなかった。