【阪急を支えた左腕・梶本隆夫13】(前編)

 梶本隆夫にとって、昭和38(1963)年は忘れられない年となった。独身生活に別れを告げ、新たな第一歩を踏み出した年だからだ。

 それまで、結婚にあまり関心を示さなかったこの独身男に、お見合いの話が舞い込んできた。

 お相手は森河享子(きょうこ)さん。大学時代はテニス部の主将も務めたスポーツ・ウーマンだ。

 お見合いの場所として梶本が選んだのは、レストランでも、料亭でもなく、西宮球場近くで弟の靖郎が一人暮らしをしていたアパートだった。

 靖郎は朝から部屋を掃除し、お茶やお菓子、おしぼりを用意した。お見合いをする兄は、ナイター終了後にやってくることになっている。

 「遅くなりまして、どうもすいません」。梶本がようやく帰ってきた。

 普段着に着替えた梶本は口数は少ないものの、靖郎の手助けもあって座は和やかだった。弟は兄に早く所帯を持ってほしかった。

 享子は実は西鉄ファンだった。西宮球場に西鉄の応援に行ったとき、阪急の先発が梶本と分かると「ああ、まずいことになった」と渋い顔になったことがある。