北朝鮮が早ければ6月末、遅くとも8月末までの間に、日本の国会に当たる最高人民会議の代議員選挙を行う模様だと、北朝鮮国内の複数の情報筋が伝えてきた。代議員選挙は、5年に1回行われる。前回は2014年3月9日だったから、次回は本来なら2019年に行われるはずだ。

それをなぜ、前倒しするのか。平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、次のように説明する。

「2014年の選挙で代議員に選出された幹部のうち、粛清されたり、資格を剥奪されたり、あるいは歳をとって亡くなったりした人がいる。人員を補充するためには補欠選挙が必要だが、それよりも代議員選挙そのものを前倒しすることにしたようだ」

高齢の代議員が亡くなって欠員が出るのは、いつの時代にもあることであり、選挙を前倒しする理由にはならない。となるとやはり、粛清の「し過ぎ」が最大の要因なのだろうか。

たしかに北朝鮮では、2013年頃から粛清の嵐が吹き荒れた。その様子は、一部が衛星写真に捉えられている。

規模が大きかったのは、何と言っても張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長の「一派」の粛清である。金正恩党委員長が自分の叔父である張成沢氏を銃殺したのは2013年12月であり、前回の代議員選挙よりも前だ。しかし韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏が韓国で出版した自叙伝『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしたところによると、張成沢氏に連座させられ、粛清された人々の数は1万人に上るという。

北朝鮮当局も、粛清を行う際には対象者の身辺を徹底的に調査する。張成沢氏の関係者として銃殺された「イケメン俳優」や、政治犯収容所に送られた元スター女優のケースもそうだった。

なので、1万人もの粛清が3カ月やそこらで終わるとも思えない。恐らく、2014年の選挙で代議員となった人の中からも、大粛清の犠牲者が出たはずだ。

ちなみに、北朝鮮の最高人民会議は、形としては他の国の国会と似ているがが、立法府としての機能はなく、朝鮮労働党が提出した法案や政策を承認するだけだ。選挙は、選挙区に配分された候補者に「賛成」か「反対」の投票を行う方式で行われる。秘密投票ということになっているが、反対投票を行うためには記載台で「反対」と記入することになっているため、反対票を投じたらすぐバレる。反対票を投じた住民には、様々な制裁が加えられることは言うまでもない。

つまりは国会の「まがいもの」に過ぎず、欠員がいくら出ようと国家運営に支障はなさそうなものだが、金正恩氏にはある種のこだわりがあるのかもしれない。彼の父である金正日総書記は、党や政府の政策手続きをほとんど無視し、独断専行で物事を進めたが、祖父である金日成主席は一応、各種会合で決を取る手順を守った。

金正恩氏は祖父のスタイルを踏襲しており、米国や韓国との対話が進展したら、最高人民会議に重要議題をはかるべき場面も出てくる。そのとき、粛清の「し過ぎ」のせいで議場に空席が目立つ、というような状況が生まれるのを、避けたいのではないだろうか。