北朝鮮の住宅法2条は「住宅の所有形態として国家所有住宅、協同団体所有住宅、個人所有住宅に分ける」と定めている。また、個人所有権を定めた民法59条も、住宅の個人所有権を認めている。

ただ、実際は国や団体に限って住宅の所有権が認められ、個人には居住権が認められているに過ぎなかったのだが、それが大きく変わろうとしている。北朝鮮北東部の経済特区、羅先(ラソン)では国が所有する住宅の個人への払い下げが始ったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、羅先市の人民委員会(市役所)は今月初め、国の所有となっている住宅を個人の名義に変更し、購入できるとの方針を示し、その条件を明らかにした。

算定された住宅価格に相当する代金を市に納付すれば、名義を個人に切り替えるというものだ。完納した時点で名義変更が行われるが、一括払いも25年分割納付も可能だ。

価格は位置、交通、景観、築年度、階数などによって異なるが、1平米あたり1ドル(約110円)から5ドル(約550円)で、市内中心部のマンションは5000ドル(約55万円)以上となるが、これを一括払いもしようとする人もかなりの数が存在すると情報筋は伝えている。一方で、周辺の農村地域の住宅は1軒で300元(約4900円)からだ。

今まで個人に認められてきたものは、住宅の所有権ではなく入居権だけで、それを売り買いする形で不動産市場が形成されてきた。

「羅先市都心部のマンションは個人間で数万ドルで取引されているが、(今回の方針は)現居住者に限って相場より安い価格で所有権を認めようというものだ。つまり、投資目的で新たに住宅の所有権を購入する場合はこの価格は適用されない」(情報筋)

市が下した方針の詳細は明らかになっていないが、別の情報筋によると、トンジュ(金主、新興富裕層)や幹部は居住権を買い漁っているという。

「羅先市の発表が出てすぐ、トンジュや幹部は個人の住宅を買い取るために東奔西走している。カネを払って入居権を確保すれば国営住宅を個人所有に変更できるため、ありったけのカネとあらゆる手段を動員して個人の住宅を買おうとしている」(情報筋)

つまり、安い価格での払い下げを認めているのは現在居住中の住宅に限るが、それ以外でもカネさえ払えば所有権が認められる余地があるようだ。

今回の発表は市民の間で大きな反響を呼び、住宅を個人所有に切り替えようとするブームが起きているが、情報筋は今回の方針の成否如何により、全国に拡大されるかもしれないと見ている。

「このような政策は共和国創建以降で初めてだ。国が国民の私有財産権を公に認める初めてのケースとなる」(情報筋)

北朝鮮政府が住宅払い下げを始めた理由は明らかになっていないが、不動産市場を活性化させ、昨年から下落に転じた不動産価格で大損をしたトンジュや幹部などの投資家をなだめる目的で打ち出した可能性も考えられる。

また、制裁不況に苦しむ地域経済を活性化させると同時に、不動産価格を地方政府の金庫に納めることで、財政を安定化させるという目的も考えられる。

ちなみに、今回の方針で認めるのはあくまでも住宅の所有権であり、土地の所有権は認められていない。

ロシアは、住宅私有化の過程で居住者に住宅を無償で与え、土地の所有も認めた。一方で中国は、1982年から住宅の個人所有を認めたが、土地の所有が認められていない。これが後に地上げを激化させる原因ともなった。つまり、やり方を間違えると社会不安の原因になりうるということだ。