中国は、脱北者を難民とは認めず「経済目的の不法入国者」とみなし、逮捕すれば北朝鮮に強制送還する。過酷な処罰が待っていることを知りながら強制送還を強行する中国に対しては、国際社会から強い批判がなされ続けている。

ただ、最近になって中国の態度に変化が生じつつある。脱北者を逮捕、追放するだけだった中国の公安当局が昨年12月、脱北女性を対象に聞き取り調査を行ったのだ。その結果が最近明らかになった。

中国のデイリーNK対北朝鮮情報筋によると、遼寧省公安局は自国民と同居する脱北女性20人あまりを地域の派出所に登録させ、監視する仕組みを構築する過程で、女性に対する面談調査を行った。

その結果、女性らがうつ病や不安障害に苦しめられ、精神的な安定が必要だという結論に達したという。

脱北女性の精神疾患の理由として挙げられたのは、北朝鮮という抑圧的な社会での経験だ。北朝鮮では、個人より集団を優先することを強いられる。中でも「生活総和」のように、常に他人から監視され、批判される体制下に置かれ続けたことが、心理面で大きな影響を与えている。

北朝鮮では、すべての人が週1回以上、職場や学校などにおいて「生活総和」と呼ばれる自己批判を行う。自分の行動や考えの間違いを告白し、自己批判を行った上で再発防止策を示し、その後は相互批判を行うというものだ。事前に口裏を合わせて批判レベルを調整するなど、形骸化が指摘されているが、今に至るまで続けられている。

中国に住んで15年になる40代の脱北女性は次のように吐露したという。

「毎週行われる生活総和などの告発制度で、根本的に他人を信用できなくなる」
「徹底した監視体制の下で、正常な対人関係を築けなくなるほど心理的な不安を抱えて生きてきた」

これについて情報筋は、中国当局が脱北女性について、「北朝鮮社会で経験した悪い記憶のせいでパーソナリティ障害、不安障害、偏執病的障害を抱えている」と見なし、中国国内においても攻撃的な行動を見せることが多いとの結論に達したと伝えた。

また、脱北過程や強制送還されるかもしれないという不安やストレスに起因するうつ病の状況も深刻だ。

ある女性は、家族との別れと申し訳なさによる不安症状を訴え、北朝鮮に残してきた家族を懐かしむ一方で、罪悪感から連絡もできないと嘆いたという。

生活習慣や言語の違い、適応過程での苦労などによる心理的な不安も少なくない。たとえ結婚相手が民族的に同じ中国朝鮮族で、同じ朝鮮語を使っていても、北朝鮮のそれとは大きく異なる。ましてや相手が漢民族ならなおさらのことだ。

また、中国人男性との結婚は人身売買の結果として行われたが、そのことにより自己肯定感が低い人も多いという。人身売買と同時に性暴力の被害に遭っている犠牲者がいることも決して看過できない。

中国当局は脱北女性の状況に同情を示しつつも、「北朝鮮とも韓国とも接触するな」「逃げるなど考えもするな」と警告したという。警察も含めた地域社会全体が、中国でも当然違法である人身売買を隠蔽すると同時に、波風を立てないことと引き換えに保護しているということだろう。「大きな檻の中にいる限り、お前は自由だ」と言い渡したも同然だ。