韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)は9月に発表した「2020北朝鮮人権白書」で、北朝鮮のいくつかの分野では過去と比較して、人権状況に改善が見られると指摘した。

白書は「2000年代以降、北朝鮮の住民の生存権、教育権、健康権が改善されている」としながら、「これは経済・社会・文化的権利に関する規約(国際人権A規約)の分野でかなりの改善が進んでいることを示している」と評価している。

筆者も、金正恩氏に国民の人権状況を改善する意思があるのだと信じたい。しかし実際のところ、北朝鮮当局が目的意識を持って人権状況の改善に取り組んでいるようには見えない。

白書もやはり、「(金正恩政権が誕生した)2010年代は、2000年代に比べて生命権、被疑者と拘禁者の権利、労働権、財産権侵害のレベルが相対的に高く、多く発生した」と、過去10年間の状況を総括。さらに、「特に政権安定、社会秩序と治安維持のための非公開処刑などの割合が増加し、生命権侵害が大幅に増えた」としている。

北朝鮮当局による人権侵害の中でも、特に注目されやすいのが公開処刑だ。大口径の高射銃を使った公開処刑の様子は、衛星写真でも捕捉されている。

だが実は、非公開で行われる処刑にも重大な問題がある。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、今年3月、軍人商店の物資供給所の女性所長が、国から供給された物資を横領していたことが判明し、非公開で処刑されたという。軍人商店とは文字通り、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将兵やその家族だけが利用できる店で、通常の市場価格よりも安く購入できるようになっている。

女性所長を逮捕した保衛部(秘密警察)は1カ月にわたり調査を行ったが、その末に出された結論は死刑だった。所長は非公開で、それもハンマーで撲殺される形で処刑された。結局、裁判は行われず仕舞いだった。

北朝鮮の司法制度では、逮捕され、取り調べ、予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)を経て起訴される。ここまでで数ヶ月かかることも少なくない。その後、広場や競技場に市民を集めて裁判官が罪状をつらつらと読み上げ、死刑判決を下した上で、銃殺により処刑を行う。見せしめとすることで恐怖を与えるためだ。

被告側が満足に弁護も受けられない仕組み自体が問題だが、裁判なしの非公開処刑はさらに問題だ。人の命が法ではなく、当局の裁量で奪われてしまうからだ。

つまるところ、人権を守る盾は法しかない。金正恩氏は自国の司法制度を抜本的に改善し、それを当局に徹底的に順守させることなしには、決して国際社会からの尊敬を勝ち取れないということを知っておくべきだ。