北朝鮮が、国民を対象に「住宅家庭財産保険」への強制加入事業を進めていることは、デイリーNKジャパンでも既報の通りだ。手頃な保険料で手厚い保護を謳っているが、保険金支払いの条件を厳しくしていることから、金正恩総書記が禁じた「税金外の負担」に当たるのではないか、との指摘がなされている。

デイリーNKが内部情報筋を通じて入手した「保険解説資料」には、上述の住宅家庭財産保険以外にも、「扶養者保険」に関する記載もある。

北朝鮮の国語辞典で、扶養者は「自らの力で生きていけない人を、責任を持って面倒を見る人」となっていることから、一家の生計を担う人が死亡した場合に、残された家族に保険金の形で生活費を支給するという内容の生命保険なのだろう。

「扶養者の死亡により発生する経済的困難を保険金で補償し、人民生活を安定させるという金正恩総書記の人民愛の結実」(資料より)

資料には「扶養者保険は、人の生命に被害を与える外的要因による事故と、内的要因による疾病の療法を担保(保障)する」とある。外的要因に挙げられているのは、交通事故、火災、墜落、衝突、溺死、事故を指し、内的要因は慢性疾患、急病、老化による死亡が挙げられている。

資料には、加入条件や保険金が受け取れないケースが明示されている。

1.保険対象 20歳以上70歳以下の扶養者
2.除外対象 刑事上の法的制裁を受けている人、扶養者家族加入時に疾病に罹患している人、70歳以上の人

驚くべきは、次のくだりだ。

3.除外条件 被保険者や保険収益者の故意の行為、非保険者の犯罪行為や暴力行為による死亡、裁判機関の判決により法的制裁を受けた人、戦争、軍事行動、核放射能及び核汚染による死亡

2018年に爆破された豊渓里(プンゲリ)核実験場のある咸鏡北道(ハムギョンブクト)の吉州(キルチュ)郡周辺では、放射能汚染によるものと思われる奇妙な病気や奇形の出産が多発していると伝えられている。実際、韓国の統一省が2018年に行った、豊渓里の近辺出身の脱北者を対象にした検査では、10人のうち5人から被曝の痕跡が発見されている。

それらの被害は今回の扶養者保険ではカバーされないことになるが、保険金支払いの可否を決定するための因果関係の調査が行われるかを含めて、この保険は謎に包まれている。

また、核実験場では、近隣にある管理所(政治犯収容所)で収監されている人々が強制労働させられているとの証言があるが、「刑事上の法的制裁を受けている人」であるため、保険の加入すら認められないということになる。

扶養者保険も、住宅家庭財産保険同様に、保険金受け取りのハードルが極めて高い。

4.損害通報及び請求 保険契約者(受益者)は保険事故発生後48時間以内に、機関に通報しなければならない。保険金請求書には、保険カード、保険金請求書、死亡確認書または医学的鑑定書が含まれる。

北朝鮮では3日間にわたって葬儀を行うのが一般的で、役所から様々な書類を受け取るにも時間がかかることを考えると、保険金の受け取りは非常に難しいはずだ。また、書類を大急ぎで発行してもらうためにはワイロを積まなければならないが、その額は、受け取る保険金の額を超えてしまうことも考えられる。

国に騙され続け、銀行など国営の金融機関を一切信用しない北朝鮮の人々のこと。いくら魅力的な条件を提示されても、そう簡単には加入しようとしないだろう。当局は、加入率が伸びないことを見越して、「すべての世帯がこの保険事業に100%参加しなければならない」と、加入を強制しているものと思われる。