北朝鮮に面した中国側の地域では2010年代前半、脱北した北朝鮮の兵士による凶悪犯罪が相次いだ。一例を挙げると、吉林省延辺朝鮮族自治州の和龍市では2015年4月、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士3人が民家に押し入り、家族3人を殺害する事件が起きている。

その後の国境警備の強化で、脱北する兵士も犯罪も減少したが、再び犯罪の増加が懸念される状況となりつつある。

北朝鮮は昨年1月から新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、食料供給の中国依存度が高い現状を考慮せずに国境を封鎖。貿易を停止する措置を取ったことで、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の再来が囁かれるほどの、深刻な食糧難に陥ってしまったからだ。

北朝鮮事情に精通したデイリーNK情報筋によると、今年1月中旬、慈江道(チャガンド)渭原(ウィウォン)郡で、18歳と19歳の国境警備隊員が、銃を持ったままで氷結した鴨緑江を渡り中国に逃げ込んだ。川幅は2〜300メートルで、地理や監視システムに明るい国境警備隊員にとって川を渡ることは朝飯前だったようだ。

2人は民家に空き巣に入るべく村に入り、ターゲットを物色していた。その姿を見かけた村人は当初、中国人民解放軍の兵士と思ったが、挙動が不審なため、公安に通報。2日後に逮捕に至った。

その後の取り調べで2人は、空腹に耐えかねて脱走、脱北を図ったと自供した。

国家保衛省(秘密警察)の傘下にある国境警備隊の隊員は、住民からワイロを受け取って密輸や脱北を黙認、幇助、或いは直接関与することで現金収入を得てきた。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が飢餓に苦しむのを横目に、相対的に恵まれた生活を送ってきた。商売の元手を得ることができるため、除隊後も裕福な暮らしが営めるなどメリットが大きいため、ワイロを使ってでも入隊しようとする人が多い。

しかし、コロナ以降の国境警備の強化で、密輸や脱北に手を出すのが困難になり、カネがカネを生む構図が崩れてしまった。そのしわ寄せは入隊したばかりの新米隊員に向かう。

当局は、地域住民とズブズブの関係にある国境警備隊だけに国境の守りを任せておけないと考えたようで、朝鮮人民軍の特殊部隊を国境警備に投入したが、その中の1人が強盗目的で脱北する事件も起きている。

さて、逮捕された2人の処遇だが、中国の公安当局は北朝鮮に強制送還しようとした。ところが、北朝鮮は「どうか送り返さないでほしいと懇願した」(情報筋)というのだ。身柄の引き渡しはコロナ封鎖が解けてからにして欲しいとの要請があったという。

北朝鮮は昨年来、中国で逮捕されて強制退去処分を受けた脱北者の受け入れを拒否し続けている。コロナの国内流入を極度に恐れているためだ。今回の2人についても同様の扱いを求めたようだ。民間人とは異なり、昨年は脱北し逮捕された兵士の強制送還を受け入れていた北朝鮮だが、何らかの事情で方針を転換したようだ。

中国に留め置かれた形となった2人の反応について、情報筋は次のように述べた。

「彼らは(北)朝鮮に帰れば、餓死するかも知れないという恐怖に震えている」
「銃殺や他の処罰を受ける問題についての話は全くしなかった」

処刑されて死ぬよりも、飢えて死ぬことを恐れるほど、食糧事情が悪化している国境警備隊の状況がうかがい知れる。