金正恩総書記が打ち出した「平壌市1万世帯住宅建設」。先月23日に着工式が行われ、金正恩氏は「この過程にわが国家の潜在力とわが人民の創造力は今一度大きく誇示される」と、建設の意義を強調した。

ところが、着工直後から事故が相次ぐ、波乱の幕開けとなっている。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、今月2日午後2時40分ごろ、平壌市郊外の寺洞(サドン)区域の松華(ソンファ)地区の建設現場で、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の8総局の兵士12人が骨組み作業を行っていたところに、大型トラックが突っ込む事故が発生した。

負傷者のうち7人が、金萬有(キム・マニュ)病院に搬送されたが、治療の甲斐なく3人が帰らぬ人となった。事故を起こしたトラックのドライバーは取り調べに対し、昼休みに酒3杯を飲んだと供述した。

しかし、当局は今回の事故を深刻なものと考えていないようで、建設に動員された兵士や労働者に対して安全を強調するばかりで、目に見える再発防止策は取っていないと情報筋は述べた。

金正恩氏ご自慢のタワマン団地の黎明(リョミョン)通りの建設でも、多くの人が事故で命を落としたが、当局は工事を中断して対策を立てることはなく、速度戦を強調するばかりだったと、情報筋は述べた。

一方で、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、1万世帯住宅建設に従事する突撃隊(半強制の建設ボランティア部隊)の宿舎で起きた火災について報じている。

平壌の情報筋は、具体的な場所は明らかにしていないが、突撃隊員の寝泊まりする宿舎で先月末、火災が起きて少なくとも20人が死亡したと伝えた。

1日12〜14時間の長時間労働なのに、睡眠時間は2〜3時間という劣悪な環境の下で働いていた突撃隊員は、火の手が上がったことにも気づかないほど寝入っていて逃げ遅れ、多くの死者を出してしまった。

宿舎は板材にビニール膜をかぶせただけの粗末で且つ可燃性物質の塊のようなもので、火の手が上がってからわずか10分ほどで全焼してしまったことと、大急ぎで建てられたことから電気の配線が無茶苦茶で、ショートを起こしたことなどが、原因として挙げられている。

情報筋は、過度なノルマを押し付けられた現場では無理な作業が強行されているとし、北朝鮮の建設現場の現状を次のように説明した。

「元々わが国(北朝鮮)には、作業者の安全は完全に無視され、当局が決めた期限に合わせて強行しなければならないという特徴があるが、当局は一度事故が発生すれば、すべての責任を建設剣場の幹部の怠慢と監督不行き届きのせいにする」

「速いことはいいことだ」という価値観が蔓延している北朝鮮では、通常ではありえないスピードで工事を進め、決められた期日より繰り上げて完成させることが成果とされる。労働者の安全や、建物の質は二の次三の次とされ、労災事故が多発している。

建設指揮部も、1万世帯建設など到底無理な指示だとわかりつつも、異議申し立てなどできず、労働者を現場に追い立てている。平壌市民の間からは、今後どれだけの人が犠牲になるかわからないと不安の声が上がっている。

平壌市民の脳裏をよぎるのは、2011年に市内の平川(ピョンチョン)区域で起きた大惨事だろう。完成したばかりのマンションが突如として崩壊し、住民450人から500人が犠牲になった。

この原因も速度戦による手抜き工事と見られているが、多くの人命が失われた反省は全くと言っていいほど生かされていないようだ。

1万世帯建設と同時に進められている、普通江(ポトンガン)川岸段々式住宅区の建設現場で、今月2日に行われた活動家と建設者の集いで、朝鮮労働党中央委員会の李日煥(リ・イルファン)書記は「建設に参加した全ての活動家と建設者が党中央の為民献身の志を体して住宅区の建設を期日に終えるための闘いで、烈火のような献身と頑強な実践力を遺憾なく発揮しなければならない」と述べたと、朝鮮中央通信は報じている。