1億1000万に達する総人口のうち、2019年9月の時点で220万人が海外に出稼ぎに出ているフィリピン。同国統計庁の推計によると、同年4月から9月までの半年で、彼らが祖国に残してきた家族に送金した額は約2110億9000万ペソ(約4811億円)、GDP(国内総生産)の約1割に達する。

実は北朝鮮と韓国の間にも、フィリピンほどではないとは言え、同じような出稼ぎ経済が存在していることはあまり知られていない。北朝鮮から逃れて韓国にたどり着いた人は、韓国統一省の2020年末の集計で3万3752人。彼らを対象にした調査では、回答者の半数以上が北朝鮮に残してきた家族に送金していると明かしている。

仕送りは家族の生活資金のみならず、商売の種銭となり、北朝鮮の市場経済化を支えている。ただし、正式なルートでの送金はできないため、ブローカーの手を借りることになる。

しかし北朝鮮当局は、こうした送金に対する取り締まりを強化している。カネだけではなく、情報も国内に流入し、体制を揺るがしかねないと見ているからだ。

今までは保衛部(秘密警察)や国境警備隊の庇護の下で送金業を営んできたブローカーが、次々に逮捕されている。そんな中、ブローカーがカネを持ち逃げする事件が相次いでいると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

新型コロナウイルス対策としての国境封鎖が長期化し、送金のやり取りに欠かせないチャイナテレコムなどの中国キャリアの携帯電話ユーザーに対する取り締まりも大幅に強化された。韓国から北朝鮮への送金そのものが困難となり、送金手数料は総金額の5割にまで高騰している。

一部のブローカーは「手数料を2〜3割にしてやる」と脱北者家族に声をかけ、中国経由でカネを受け取った上で、「状況が状況なので送金が受け取れなかった」と嘘を付き、全額を騙し取っている。

道内の普天(ポチョン)郡に住むキムさんは今月2日、韓国に住む親戚から送金を受け取ることになっていたが、ブローカーから「カネが中国から来なかった、出直せ」と言われ追い返された。また、大紅湍(テホンダン)郡に住むチェさんは今月11日、韓国に住む娘からの送金を受け取るために、道庁所在地の恵山(ヘサン)に向かったが、ブローカーから「数日後に出直せ」と言われ追い返された。いずれのブローカーも、実際はカネを手にしていた。

被害者は泣き寝入りするしかない。

「越南逃走者(脱北者)や非法越境者(脱北して中国などに出稼ぎに出た人)家族は、ブローカーに騙されたことはわかっていても、違法な送金であるため通報もできず、泣き寝入りするケースがほとんど」(情報筋)

情報筋は、国境封鎖で皆が苦しい中、ブローカーの8割が詐欺を働いていると言っても過言ではないとして、中には「通報する」などと脅迫してカネを騙し取るケースもあると証言した。逆に言うと、ブローカーも経済的に追い詰められているということだろう。

通報が不可能な事案だけに、続発する事件と関連して、当局の動きは伝えられていない。2018年には、送金を横領した保安員(警察官、現在は安全員)を当局が摘発した事例も報告されているが、国を挙げて送金ブローカーの根絶に取り組んでいる今では、想像だにできない。

送金を取り締まることは、貴重な外貨収入源を絶ち、自分の首を締めることになるが、今はそれよりも建前を優先し、経済難による国内の風紀の乱れの取り締まりを優先しているのだろう。そんなやせ我慢がどれだけ続くか注目される。