2500万に及ぶ北朝鮮国民はそのすべてが、職場、学校、人民班(町内会)、女盟(朝鮮社会主義連盟)などの組織に属し、そこを通じて配給、教育などの行政サービスを受け、同時に統制を受けるという体制に組み込まれて生きてきた。これを「組織生活」と呼ぶ。勝手気ままに、自分の意思で生きるのは許されないのが北朝鮮だ。

そんな状況に変化が生じはじめたのが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の頃だ。属している組織から配給を受けられなくなったため、生きていくために職場に出勤せず市場で商売したり、家を捨て食べ物を求めて各地を放浪したりする人が急増した。

それから20数年。コロナ鎖国下で、また同じような状況になりつつある。食糧が底をついた「絶糧世帯」が急増。生きていくために家を出て出稼ぎに行ったり、職場を無断欠勤して商売に勤しんだりする人が急増しているのだ。

また、肥料不足と自然災害で凶作が続き、借金漬けで首が回らなくなった農民が、農村を出て都市部に働きに出るケースも増えているようだ。その穴埋めをするために、都市部から多くの若者が送り込まれているが、まさに焼け石に水と言っても過言ではないだろう。

そんな中で当局は、「組織生活」から逃れようとする人々の取り締まりに乗り出したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、放浪者、無断欠勤者など組織の統制から外れる人の急増に伴い、当局は集中的な調査と取り締まりに乗り出した。

中央からは今月初め、工場、企業所、労働党、勤労団体の職場を無断欠勤している人、居住地を離れ放浪している無職者、職場離脱者を徹底的に把握し、統制せよとの指示が下された。各組織の担当者は安全員(警察官)と共に、出勤していない人を訪ね歩き、出勤するように指示している。自宅にいない場合には親戚や知人宅まで訪ね、行方を探している。

また、各地域の安全部(警察署)は、工場、企業所、機関に対して従業員の出勤状況を1日2回、分駐所(派出所)に報告させている。もし無断欠勤者などを発見した場合は、事情を問わず、労働鍛錬隊(刑務所)送りにしている。最高で1年の懲役刑となるとのことだ。

無断欠勤していた人もこれには流石に驚き、出勤するようになったが、それも一日二日で、取り締まりが緩めばまたいなくなってしまうという。食べるものがなく生活が苦しいのに、出勤や組織生活などどうでもいいのだ。

完全に食い詰めた人の中には、家を売り払って出稼ぎに行き、その先に居着いたり、あちこちを転々としたりする人もいる。彼らは、餓死を免れるためにそのような選択を強いられたわけだが、「国は助けてくれるどころか、取り締まるばかりだ」と不満を示しているという。

このような取り締まりは以前から続けられているが、あまりうまく行っていないようで、当局は厳罰化で対応しようとしているようだ。

一方、咸鏡北道のある地域の人民班長は、RFAの取材に、朝鮮労働党の咸鏡北道委員会から各地域の洞事務所(末端の行政機関)に、仕事をしていない無職者、居住登録した場所を無断で離れた居住地離脱者、人民班生活をまともにしていない社会保障者(障がい者など)、商売のために半年以上学校に登校していない児童、生徒を把握し、報告せよとの指示が下されたと証言した。

最近、子どもを学校に通わせられないほどの生活苦に陥っている人が多く、また、どの組織の統制も受けないため、代わりに地域の党委員会や洞事務所で管理することになっている社会保障者も少なくないが、実際の統制は非常に弱いとのことだ。

このような状況は、「苦難の行軍」のころを連想させると語るこの人民班長。その頃から、数の増減はあっても、組織の統制から逃れようとする人は常に存在してきたが、コロナ禍の今、国境地帯などあちこちを放浪することで、各地にウイルスを広げることを当局は極度に恐れているという。コチェビ(ストリート・チルドレン)の取り締まりに熱心になるのと同じ理由だ。