秋の収穫が本格化した北朝鮮。国営メディアは、各地の収穫の状況を伝えると同時に、強風、大雨、雹による収穫物への被害が発生しているとして、収穫を急ぐよう呼びかけている。

自然災害同様に、収穫物に被害を与える物がある。窃盗や横流しだ。

デイリーNKは最近、朝鮮労働党両江道(リャンガンド)委員会が今年7月初め、下部機関に配布した政治事業資料「わが党の崇高な愛が宿る糧穀取り扱い事業をより責任を持って行おう」を入手した。その内容は、食糧の窃盗や横流しは戦時法で裁くと警告するもので、今後、こうした行為に対しては公開処刑などの極刑が下される可能性がある。

北朝鮮では1990年代の大飢饉「苦難の行軍」期に治安が悪化。当局は犯罪者の公開処刑を繰り返し、恐怖をもって社会を統制した経緯がある。当時、公開処刑を目撃したある脱北者は韓国メディアに対し、当時感じた「人間が犬のように死ぬ」との思いを語っている。

今後、北朝鮮の食糧難がいっそう深刻化すれば、これと同様の「暗黒時代」が再現されないとも限らない。

資料の冒頭には「党と国家が当面した食糧危機を克服するために、国の事情がこのように苦しい中でも、多くの糧穀を放出し、人民に供給することについての重大措置を取った」と、食糧難を認め、その解消のために配給を行ったとするくだりがある。

金正恩総書記は7月、食糧難の深刻さに、軍用の食糧である軍糧米を放出し、人民に配給するよう特別命令書を出したと伝えられている。ただ、その量は空腹を充分に満たすほどではなかったようだ。

資料は続けて、「党の愛が込められている糧穀取り扱い事業を請け負った一部のイルクン(幹部)たちと、勤労者たちの間で、糧穀を違法に処理したり、盗難、流出させるなどといった非正常な現象が些細ではあるが起きている」と指摘した。

そして、その実例を挙げている。両江道の豊西(プンソ)郡では、穀物の輸送を任されたイルクンが100キロあまりもの穀物を違法に奪って摘発された。また、恵山(ヘサン)市では、輸送途中の穀物250キロが盗まれる事件が起きた。

相次ぐ盗難と横流しについて資料は「このような行為は意識的でも、無意識的でも党の尊厳高きイメージに泥を塗るもので、党と大衆を仲違いさせる反党的、反人民的行為」だと激しく批判。穀物の管理不行き届きや違法行為が見つかれば厳罰に処すとしている。

穀物が輸送途中に忽然と姿を消したり、中身が安物に入れ替えられたりする現象は、広範に起きている。食糧の多くを協同農場の収穫に頼っている朝鮮人民軍(北朝鮮軍)はその最大の被害者と言うべき存在で、末端の兵士のところに届く食糧は大幅に目減り。腹をすかせた彼らは、食べ物欲しさに農場や民家を襲撃しているのだ。

輸送担当者の無責任、出来心もさることながら、北朝鮮の農業はそもそも収穫が少なく、必要な量を満たしていないという根本的な問題が存在する。

北朝鮮の農業は、社会主義計画経済の司令塔である国家計画委員会が決めた農業生産計画に基づき、各地域、農場にどれくらいの作物を生産するかのノルマを割り振るのだが、自然災害や肥料などの不足による不作を考慮していないものだ。言われるがままに穀物を納めれば、農民の手元にはほとんど何も残らない。

貧しい農民の多くは、トンジュ(金主、新興富裕層)から借金として借りた穀物で、必要な営農資材を買い込んで農作業を行い、秋の収穫後に利子を付けて返済しているのだが、国にすべて取られてしまえば、食い扶持の確保はもちろん、借金の返済にも息詰まる事態となる。

そこで、穀物を渡すまいとする農民と、一粒でも多く持ち去ろうとする当局の間で、毎年のようにトラブルになっている。

今回の政治事業資料には、「すべてのイルクンと勤労者が助け合い統制して、目を光らせて通報する大衆的な闘争の雰囲気を打ち立てるべきだ。糧穀取り扱い事業で現れる非正常な現象については、些細なことであっても厳重な行為とみなし、戦時法で厳しく処罰することを心に刻み、糧穀取り扱い事業をより責任を持って行わなければならない」とし、上述のような行為に対しては、平時の法より厳しい戦時法で裁くという、脅迫めいたことが記されている。

穀物に関しては、市場での販売を禁じて、国営の国家食糧販売所での販売に一本化する方針が示されている。盗難、横流しの被害に遭った穀物が市場に流されることを防ごうという意図もあるのだろうが、それに対する商人の不満は大きく、計画そのものがうまく行っていないと伝えられている。