北朝鮮の金正恩総書記が、「平壌市1万世帯住宅」とともに提唱したメガプロジェクト、「普通江(ポトンガン)川岸段々式住宅区」。

経済制裁とコロナ禍、自然災害の三重苦で経済難が深刻化する中でも、金正恩氏がハコモノ建築にこだわるのは、手っ取り早く目に見える業績として示すことができるからだ。

そのしわ寄せは庶民のところに向かう。それは、金正恩氏自身が今年1月の朝鮮労働党第8回大会の結語で、犯罪行為だとした「税金外の負担」という形で現れる。自ら発した指示が、現場レベルで齟齬をきたしているのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、女盟(朝鮮社会主義女性連盟)は、「忠誠心の発現として支援事業が必要だ」として、建設現場に動員された突撃隊員(半強制の建設ボランティア)や建設労働者を鼓舞するために、資金面で模範を見せるべきだと主張。「元帥様(金正恩氏)のお言葉と関心の中に建設されている」として、建設資金の一部を負担をすべきだとした。

道内の慶源(キョンウォン)郡の女盟は、1人あたり5000北朝鮮ウォン(約115円)から1万北朝鮮ウォン(約230円)、穏城(オンソン)郡の女盟は8000北朝鮮ウォン(約184円)を支払うよう指示を下し、「カネがなければ、金額分のトウモロコシ、大豆、ジャガイモを出してもいい」とした。

また、多額の支援金を出した女盟員で代表団を作り、建設指揮部に直接伝達するとのことだ。カネで名誉が買える形にして、より多くの支援金を集めようという目論見があるのだろう。

「税金外の負担は許さない」とする金正恩氏の方針に真っ向から反する指示を下した形だが、女盟員の間からは否定的な反応が出ている。

「今の時期、越冬の準備をしなければならないのに、相次ぐ税金外の負担で腰が曲がりそうだ」(女盟員)

また、「集められたカネがそっくりそのまま建設労働者や突撃隊員に行くのであればまだいいが、どうせ途中で幹部が中抜きするだろうと思うと胸が痛む」との反応も聞かれたという。

そもそも、ハコモノ建設を行うには予算面での裏付けがなければならないが、そんな予算がないため、一般国民から様々な形で、税金外の負担として金品を提供させると同時に、突撃隊としてタダ働きさせることで、無理やり建設を進めるというのが今までのやり方。

それを断ち切るためには、きちんと法律を制定し、それに基づいて税金を徴収しなければならないが、税金廃止は金日成主席の遺訓。遺訓政治を掲げる北朝鮮において、それをひっくり返すのは金正恩氏にとっても非常に困難なことだ。

かくして、実効性のない指示や方針が、時間が経つにつれ有耶無耶にされてしまうという、今までの同様の流れとなり、極めていびつな体制に戻っていくのだろう。