吉林省の吉林監獄に収監されていた北朝鮮出身の朱賢健(チュ・ヒョンゴン)受刑者が脱獄したのは、10月18日のこと。

中国メディアはこの事件をセンセーショナルに報じ、中国じゅうを巻き込んだ大騒ぎとなっていた。その後、吉林市永吉県の村で行われた結婚式に新婦の友人を語り姿を見せるなどの足取りが報じられていたが、先月28日、吉林市の松花湖のほとりにある倉庫で逮捕された。逮捕時に逃げようとして足を撃たれたが、手当てを受けて命に別条はないとのことだ。

中国を騒がせた朱賢健受刑者とはどのような人物だったのか。複数のデイリーNK内部情報筋の話をもとに、その人物像を探った。

彼は国境から離れた内陸地方の炭鉱の村の出身だが、兵役で国境沿いの地域に配属されていた。除隊後には故郷の家に戻るよう規定されているが、彼は比較的豊かな国境沿いの地域に留まり、兵役中に築き上げた人脈を活用し、個人事業を起こそうと考えていたようだ。

ちなみに中国メディアは、彼が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊の出身だと報じているが、いずれの内部情報筋もそのことには言及していない。

地域に残るためには、除隊後の職場配属を担当する軍の隊列課や地域の安全部(警察署)の居住担当の幹部へのワイロが欠かせないのだが、彼にはそれだけの経済的能力がなかった。

故郷に戻らざるを得なくなった彼は、2013年7月、国境の川を渡り脱北、中国への逃げ込んだ。そして、民家に押し入り、住民を刺して重傷を負わせたことで逮捕され、強盗、殺人未遂の容疑で11年3ヶ月の実刑判決を受け、吉林監獄で刑に服していた。

一方、韓国の通信社ニューシスは、朱受刑者が、実の姉の脱北に関与して、労働教化刑(懲役刑)9年の判決を受け、炭鉱に送り込まれることとなり、それを避けて中国に逃亡したと報じている。

中国の公安当局は、彼を逮捕した後、北朝鮮当局に身分照会を要請したが、名前と居住地が明らかでないとして、自国民ではないとの回答が返ってきたとのことだ。しかし、今回の脱獄事件でようやく彼の存在に気づいた北朝鮮当局は、身辺調査を行い、その結果は金正恩総書記にも報告されたと、情報筋は伝えている。

金正恩氏は「中国当局から身辺調査の依頼が来た場合、わが国民でない可能性がどれほどあるのか」「詳しく見て積極的に対処せよ」と、当初の安易な対応を叱責したとのことだ。

なお、今回の事件を受けて、住民登録事業を管掌する社会安全省(警察庁)第8局が、居住地が明確でない除隊軍人の居住実態について調査を行っていることが確認された。また、除隊後に元の勤務地で個人事業を行う場合には、居住を許可していた前例を撤廃せよとの指示も下した。この前例が、北朝鮮では政治的事件として扱われる行方不明事案を増やしたという理由からだ。

朱受刑者の今後の処遇について、中国メディアは2023年8月に出所予定だったが、刑期が延長されるだろうと見ている。また、脱獄の理由については、出所後に北朝鮮に強制送還されれば命が危ないと悟ったためだとしている。さらにはモンゴルや韓国への逃亡を図ったのではないかとの憶測も語られている。

いずれにせよ、北朝鮮への送還が先延ばしになれば、その分、生き長らえることになったということであり、脱獄はある意味で「半ば成功した」と言えるかもしれない。