北朝鮮の国家非常防疫司令部は、先月14日から毎日、全国で報告された発熱患者の数を発表し、国営メディアがそれを報じている。

だが、その数字に疑問が呈されている。国家非常防疫司令部は、死者の数を正しく把握できていないというのだ。それは、北朝鮮の構造的な問題に起因する。詳細を平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

情報筋によると、国家非常防疫司令部は各地方の非常防疫司令部に、毎日報告を挙げるように指示しているが、その内容は3回変更されている。

まず、先月12日に北朝鮮が国内での感染者を公式に認めてから先月末までは、地域で発生したコロナ感染が疑われる患者、発熱患者、隔離対象者、全快者、死者の数を毎日報告するように指示が出されていた。

それが今月に入ってからは、道ごとに死者の数をまとめ、中央が要求すれば毎週または毎月報告せよとの指示が出された。そして最近になり、毎日報告するよう指示内容が変更された。つまり、最初の指示に戻されたということだ。

2回目の指示について情報筋は、「病気の症状は風邪レベルなのに、死者が多数に上ることが知られれば、住民の防疫に対する意思が弱くなるとの懸念」から下されたと説明した。これは、国家非常防疫司令部の指揮部に属する朝鮮労働党、政府、軍、司法、安全(警察)、保衛(秘密警察)の各防疫総司令官が共同対策意見として提案し、批准を受けたものだという。

ちなみに朝鮮労働党機関紙の労働新聞は、今月4日までは「死者は○人」または「死者はいない」などと、死者の有無と数について触れているが、それ以降は死者がいた場合にだけ、記事で触れるようになっている。だが、14日以降の紙面では、死者数の累計を発表するようになっている。このような変化は、上述の指示の変更との関係性が考えられる。

だが、これらのいずれの数字も、正確な数を表していないというのが、情報筋の説明だ。

「各地方の非常防疫指揮部は、コロナ死者の嘘の報告をして、国家非常防疫司令部も、それをそのまま発表せずに、数を減らしたりゼロにしたりして発表している」

なぜそういうことになってしまうのか。北朝鮮の基本は「計画」だ。例えば、今年の鉱工業、農業の生産は何トンと決められたら、無条件でそれを達成しなければならない。原材料の不足、天変地異などの事情があっても一切考慮されず、達成できなければ、責任者は処罰される。このやり方がコロナ対策でも踏襲されてしまっているのだ。

さらに、新型コロナの感染拡大の初期において、不可抗力とも言える理由で防疫ルールを守れなかった軍人たちが、見せしめに処刑された「残酷ショー」の記憶も、幹部らの気持ちを重いものにしているようだ。

最近の防疫計画において、いつまでに発熱患者と死者の数を何人以下に減らせという具体的な指示があったかどうかは不明だが、たとえなかったとしても、非常防疫指揮部の幹部は、自然にそのように考え、処罰を恐れて虚偽の報告をしてしまうのだ。

相手がウイルスでは、いかに完璧な対策を取ろうとも、うまくいかない可能性もあるのに、そんなことなど考慮されないだろうと考えているのだろう。

虚偽報告の手法としては、別の病気として処理してしまうという手法もある。報告書のフォームには、死者の数の隣に備考欄があり、そこに死因を記載することになっているが、たとえコロナによる死亡であっても基礎疾患、高齢など別の死因にしてしまうのだ。

黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋は、このような虚偽報告のせいで、道庁所在地の沙里院(サリウォン)では、コロナによる死者はほとんどいないことにされてしまっていると伝えた。

「55歳以下の死者のうち、発熱などの症状を見せ死亡した人に限って、コロナ死亡の疑いと記載している。それ以外の死者は、死因を一般的な病名として処理している」(情報筋)

ちなみに、隣接する黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)と康翎(カンリョン)では、急性腸内性伝染病の患者が多数発生しているが、虚偽報告が蔓延る現状を考えると、実際は腸チフスやコレラではなく、コロナである可能性も考えられる。

金正恩総書記の司会の下、8日から10日に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第5回総会拡大会議では、防疫対策において現れた地方のイルクン(幹部)たちも無責任ぶりを批判し、処罰するとの警告がなされたが、そのせいで、虚偽報告をしようという空気が逆に高まってしまっていると情報筋は伝えた。

毎日発表される発熱患者の数だが、18日を境に1万人台に減り、ピークだった先月15日の39万2920人より大幅に減っている。

国家非常防疫司令部も、虚偽報告を行っているため、地方を批判することもできない。そんな嘘の数字が、金正恩総書記のもとに報告されているのだ。