北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)。平均海抜1338メートルの高地にあるが、その中でも雲興(ウヌン)郡は、蓋馬(ケマ)高原に位置し、平均海抜は1425メートル、総面積の95%が1000メートルから2000メートルに達する。

麦やジャガイモ、ホップ、ほうれん草などの農耕、林業、鉱業が行われているがごく一部で、多くが未開拓地だ。そんな雲興で餓死者が続出しているという。両江道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

食べ物が底をついた「絶糧世帯」が道内で最も多く、餓死者が多く出ているという報告書を受けた朝鮮労働党両江道委員会(道党)は、先月中旬から今月初旬にかけて現地の生活実態の調査を行った。

その結果、1日3食を食べられている世帯はあまりなく、長期間コメを食べられていない世帯も多く、すべての世帯が昨秋から飢餓に苦しんでいることがわかった。

ある住民は、実態調査にやってきた道党のイルクン(幹部)を手を握りしめ、「今年に入ってから白米を食べたのは3〜4回に過ぎず、それも家で食べたのではなく、工場や企業所、建設現場で働いてもらったものだ。家で子どもが飢えていると考えると、喉を通らなかった」などと涙で訴えたという。

また別の住民は、「放置された土地がなぜあるのかわかるか。種も食べ尽くしたからだ。今年(の農繁期)はもう過ぎたが、来年の春の種まきの前に党から種を国定価格で売って欲しい」と訴えた。

さらに別の住民は「熱が出て苦しくとも、生き抜くためにもがいているが、道党はどうか背を向けずに、われわれを助けて欲しい」と支援を訴えた。

雲興郡の邑(郡の中心地)の小学校では、牛乳の配給が今年初めから止まり、子どもたちは家でも食事を出来ずに登校する状況だったため、学校は親から現金を徴収し、おからの入った薄いスープを食べさせたという。

苦しいのは庶民だけでない。道党のイルクンは、郡内の機関の責任者、幹部の家を予告なしに訪問した。しかし、彼らですら非常に追い込まれている状況を確認し、ため息を付いて家を後にしたとのことだ。

本来、北朝鮮の食糧事情が最も逼迫するのは春先から初夏にかけてで、この時期になれば麦、ジャガイモ、トウモロコシなどが出回り始めるのだが、異常気象でこれら作物の不作が伝えられており、現地に届いていないのだろう。

道党は雲興郡のみならず、自然環境が似ている普天(ポチョン)郡の住民生活も追い詰められていることは火を見るよりも明らかなのに、報告がなされていないとして、道内の他の地域に対する調査も行う計画だ。

また、餓死に直面している雲興郡民を放置できないとして、道内の他の地域で採れたトウモロコシを、市場価格より安い値段で配給する計画を立てている。

「雲興郡とその周辺の高山地帯の農業は、今年もまともにできなかったが、来年も同様の状況が続くかもしれない。道党のイルクンはもどかしい思いをしており、住民は希望を失っている」(情報筋)

農耕に適していないこの地域だが、農業生産の努力はなされている。

国営の朝鮮中央通信は2020年6月、両江道の北部高山地帯に数十万株のグミ科のサジー(記事ではヒポペ)の木を70ヘクタールの面積に植えて栽培していると報じ、雲興郡では苗木の栽培と同時に実の収穫が行われていると伝えている。高緯度地域での栽培に適したスーパーフードとして脚光を浴びている。だが、栽培に関する記事は、昨年10月以降途絶えている。おそらくうまく行かずに、うやむやになってしまったのだろう。