北朝鮮当局が最近、国営の商業企業と市場に対して指示を下したが、その内容の一部が物議を醸している。出されて当然と思われる内容が含まれている一方で、過去20数年間の北朝鮮経済の発展を根本から否定するような部分があるからだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

当局は最近、「すべての商業奉仕部門と市場での反社会主義、非社会主義現象を徹底的になくすことについて」というタイトルの講演資料を配布した。その後、これに基づいた内容の政治講演会が行われているものと思われる。

資料はまず「わが(朝鮮労働)党とわが人民のかつてなかった保健危機に打ち勝ち、最大非常防疫体制から緊張が強化された非常防疫体制に転換したにもかかわらず、商業奉仕部門と市場で反社会主義、非社会主義現象が絶えない」とし、「党の思想と意図を正しく認識できていない商業部門と市場が国家的非常防疫措置を金儲けの空間と考えている」と指摘した。

資料で挙げられた反社会主義、非社会主義現象の一つは、科学的根拠の明確でない「コロナ特効薬」と称するものの販売だ。

「一部の住民の間で、正常な非常防疫体系に転換したにもかかわらず、新型コロナ予防薬と称して、ニセ薬を売る現象、さらには党の政策を貶す根拠のない流言飛語(デマ)を広げ、民心を乱している」(資料)

市場でニセ薬が横行し、北朝鮮国民の健康を害しているのは事実であり、その指摘そのものは非常に真っ当なものだ。しかし、そもそもニセ薬が出回るのは、コロナ対策と称して国境を封鎖、貿易を止めたことで医薬品が極度に不足したせいだ。問われるべきは、人流ならともかく、品物を通じてウイルスが流入するという、科学的根拠の明確でない情報を元に、物流まで止めてしまった北朝鮮政府の対策のあり方だろう。

さて、より問題になるのは次の部分だ。

「商品価格を国家が決めた限度より高く売っている。法的統制にも、商品を高い価格で販売したり、隠し持って取締官の目を避けつつ販売して、住民に不便を与えるという、反社会主義、非社会主義行為との闘争を強く推し進めなければならない」

需要を満たすほどの供給がないために物価の上昇が起きるわけだが、それも元はと言えば、市場で取引される商品のほとんどが中国製である現実を無視して、国が貿易を止めてしまったことによるものだ。

また、国定価格は市場価格とかけ離れており、そんな値段で商品を販売すれば損をするだけ。国定価格の販売を強要すれば、商人は販売をやめてしまい、物資不足に拍車がかかるだけの結果をもたらす。

市場価格の否定は、北朝鮮の計画経済体制が完全に破綻した1990年代後半以降、人々の生活を支えてきた市場経済化を完全に否定するも同然のことだ。

資料はさらに、貧しい人々が何とか生き残ろうとする道さえも絶とうとするかなような内容も含んでいる。

「非常防疫期間中に、生活が苦しいという理由で市場ではない道端で衛生、安全性の担保されていない物品や食品を売買し、社会秩序と防疫規律を破ると言った、反社会主義、非社会主義行為との闘争にすべての公民が立ち上がるべきだ」(資料)

市場で商売する商人は、市場管理所を通じて市場管理税(ショバ代)を支払うことになっているが、それすら払えないほど零細な商人は、市場周辺の道端や住宅街の路地裏で露店を広げて商売をしている。これをイナゴ商人と呼び、当局は度々取り締まりを行っているが、餓死の瀬戸際に立たされた人々は、取り締まりの目を盗んで商売を続けてきた。

国民の経済活動の自由はもちろん、生存権すら否定するような今回の指示に、庶民からは当然のことながら批判の声が上がっている。問題は反社会主義や非社会主義ではなく、政府の間違った経済政策にあるという、当たり前のものだ。

「政府は、生活問題を解決するという話はせず、一から十まで全部やるなという情けない指示ばかり下している」(情報筋)

北朝鮮経済の現在のあり方を完全に否定するような今回の指示だが、おそらくはうやむやになって終わるだろう。北朝鮮当局はしばしば、現実性を欠いた指示を下すが、それを執行する現場の担当者は、当初取り締まりを行って「やってる感」を出すが、しばらくすれば何もしなくなる。

人々を苦しめるだけの政策はトラブルの原因となり、激しい反発を生む。現実性を欠いた指示の方がむしろ「経済的被害と不便を与え、社会秩序を乱す」(資料)ことになるのだ。