落書き――日本では器物損壊や不法侵入などの軽犯罪扱いだが、北朝鮮では極めて重大な事件として扱われる。

それは落書きの内容が、朝鮮労働党や北朝鮮政府、そして金正恩総書記を批判するものであるからだ。政治事件として扱われ、地域では、住民全員の筆跡鑑定など、徹底した捜査が行われる。

中国と国境を接する両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で先月、落書きが発見され、大騒ぎになっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは市内の恵花洞(ヘファドン)でのこと。当局の命令で、各人民班には、住民を動員して、警戒を強化するよう命令が下されたが、動員された住民は警備哨所(チェックポイント)で寝るだけのケースもあれば、ある人民班長は、経済難の中で仕事に追われていることを考慮して、夜間警備を省略するなど、形ばかりの警備強化となっていた。

そんな中で事件が発生した。あろうことか、警備哨所の壁に、国を非難する内容の落書きがされていたのだ。当日の夜間警備を担当していた住民は、寝入ってしまい、朝になって落書きを発見、保衛部(秘密警察)に通報した。

具体的な落書きの内容は伝えられていない。これは、金正恩氏を批判する内容であった場合、内容が知れ渡ると、その権威に傷がつくと考えられているからだろう。

ちなみに、首都・平壌では昨年12月下旬、マンションの外壁に「金正恩の犬野郎、人民がお前のせいで餓死している」と書かれているのが見つかり、大騒ぎになった。書いた人が捕まれば間違いなく処刑だが、犯人が特定されたという話は聞こえてこない。

事件を重く見た恵山市人民委員会(市役所)は先月末、市内の人民班に対して、警備をさらに強化し、住民の動向や流言飛語(デマ)を徹底的に掌握し、内部の敵が身動きが取れないように徹底した警備を行うよう指示を下した。

警備は2交代制で、午前5時から午後8時と、午後8時から午前5時までだ。それも、警備哨所の中には入らず、外に立って警備せよとのことだ。

コロナに対する非常防疫体系が宣言されていたころには、恵山をはじめとした国境に接する地域には、非常に厳しい警備が体制が取られていたが、金正恩総書記が「対コロナ勝利宣言」を行って以降も、この地域では厳しい警備が続けられることになっていた。

ところが、実際には警備は緩み、外部の見知らぬ者が町内に入ってきても、ろくに報告をしない状況となっていたと情報筋は伝えた。

今のところ、犯人は見つかっていないようだが、摘発されれば、処刑を含めた重罪は免れないだろう。