かつての北朝鮮では、軍官(将校)や保衛員(秘密警察)、安全員(警察官)が結婚相手として人気が高かった。

ワイロを得る機会は少なくとも、社会的に尊敬される地位にあった軍官だが、それも今は昔。苦しい生活を強いられ、軍での服務にも支障をきたす有様だ。老後の福祉も削られる一方で、絶望した軍官の多くが軍を去りつつある。

一方、何かにつけて民間人からワイロをせびり取る機会が多く、ふんだんな食糧配給も得られていた保衛員や安全員だが、昨今の食糧不足で配給を減らされ、以前ほどの人気はない。今、女性たちが結婚相手として好むのは、脱北者の家族だ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

コロナ鎖国で深刻な食糧不足と経済難に陥った北朝鮮だが、その一方、脱北して韓国や中国に住む家族のいる人々は、相対的に暮らし向きが楽だと言われている。彼らは、コロナ前から良い暮らしをしていたが、政治的に問題があると見られ、常に保衛部の監視を受ける対象となっていた。そのため、結婚相手としては避けられていた。

一方で、今まで良い暮らしをしてきた保衛員や安全員の生活水準は、今や一般市民とさほど変わりがない。かつて、恵山(ヘサン)の保衛員と安全員は、密輸を見逃す見返りに市民からワイロを受け取り、豊かな暮らしをしていた。しかし、コロナ鎖国で密輸ができなくなり、配給も減らされ、余裕のない暮らしを強いられている。

それで、人気のある結婚相手として浮上したのが、脱北者家族というわけだ。

「2年以上にわたる国境封鎖で、一般住民はひどい生活難に喘いでいるが、南朝鮮(韓国)や中国に親きょうだいや親戚のいる人は、彼らから仕送りを受け取り、楽に暮らしている」(情報筋)

恵山に住む20代女性は、デイリーNKの電話取材にこう答えている。

「南朝鮮や中国に逃げた家族のいる人は、保衛部や安全部の監視を受けることもあるが、生活がここまで苦しくなるとそれが重要な問題とも思えない」

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)に住む女性は、結婚観を次のように語った。

「最近、自分や同い年の友達は、(相手の)条件がよくなければ結婚しようとしない。今のような環境で、良い仕事についている男性よりも、商売の元手となるお金を持っている(脱北者家族の)男性と結婚するのが最上の選択だ」

さらに茂山(ムサン)に住む女性はこう語る。

「今のような世の中で、経済的条件を見ずに結婚する人がどこにいるか。以前は、社会的地位と将来性を見て結婚相手を選んだが、今は幹部といえども生活が苦しいので、外国に親戚がいる男性が女性の間で人気だ」

ただ、脱北者を多く出した両江道や咸鏡北道も、未婚男性の数には限りがある。「脱北者家族の男性と結婚したくても適当な相手がいなくて悩む女性が多い」(恵山の女性)とのことだ。

当局は、脱北者家族を都市部や国境に接した地域から、奥地に追放する事業を進めてはいるものの、実際に手を下す保衛部が生活に困り、ワイロを受け取って対象リストから外している。つまり、今でも都市部に住んでいる脱北者家族は、カネとコネと兼備した北朝鮮版「リア充」なのだ。

市場経済化の進展に伴い、必ずしも国から割り当てられた職場に通う必要のない女性が、市場で商売をして現金収入を得るようになり、女性の経済的地位が向上した。それに伴い、結婚相手を選ぶのも男性ではなく、女性になった。