北朝鮮で7月27日は「戦勝節」とされており、これは祖国解放戦争の戦勝記念日――つまり朝鮮戦争に「勝利」した日となっている。実際は単に休戦協定に調印しただけなのだが、それはさておき、この日を祝う記念コンサートに、期待の新人が登場した。

チョン・ホンラン。熱く歌い上げた「熱情の歌」の内容は、金正恩総書記を称える陳腐なものだったが、北朝鮮の人々の注目を集めたのはそこではない。彼女のヘアスタイルだ。

「前髪パッツン」のおかっぱ頭、今風に言うとフルバングショートだ。北朝鮮では珍しいこのヘアスタイルが、人々の耳目を集めていると、南浦(ナムポ)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

彼女は戦勝節のイベントに続き、9.9節(共和国創建日、建国記念日)のイベントにも同じヘアスタイルで登場。上演された全11曲のうち5曲を歌いあげ、金正恩時代の新たなスターとして頭角を現すとともに、その新鮮なファッションが若い女性の間で大きな話題となった。

市内の個人経営の美容室では「チョン・ホンランと同じヘアスタイルにしてほしい」という若い女性が急増しているとのことだ。

そういった客に、美容師はプロの視点からこんなアドバイスをしているという。

「チョン・ホンランのヘアスタイルは誰にでも似合うものではない。面長でおでこが広い女性ならよく似合う」

韓国のK-POPに夢中になっている北朝鮮の若者だが、そんな彼女らが珍しく、指導者や党を称える歌ばかり歌う北朝鮮の歌手に注目したのは、当局としても決して悪くない話だろう。しかしどういうわけか、彼女を真似る行為は取り締まりの対象になってしまっている。

南浦市の反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)は、路上や大学の入口で、このヘアスタイルをしている女性を厳しく取り締まっている。その理由とは「歌手のヘアスタイルは、出演のために国から承認を得たもので、個人が真似すれば資本主義遊び人風だ」というもの。

北朝鮮では、ヘアスタイルさえも国推奨のものがあり、国営の美容室では、それにしかしてもらえない。オシャレな人々は、高い料金を払ってでも個人経営の美容室に行って望みのヘアスタイルにしてもらうのだが、それすらもダメだというのだ。

やり過ぎとも言える82連合指揮部の取り締まりに、「チョン・ホンランが全国の人民の前であのヘアスタイルで歌うのは大丈夫で、自分たちは真似をしただけでなぜ『遊び人風』と指弾されるのか」と、国のダブルスタンダードに強い不満の声が出ている。

北朝鮮は、国が厳しい状況にあるときに、国内の締め付けを強化する傾向にあるが、ヘアスタイルすら自由に決められないほどの締め付けの強さに、当局の意図とは逆に、若者の心は離れていくばかりだろう。