北朝鮮で頻繁に行われる政治講演会。朝鮮労働党の政策や方針、対外政策などを伝え、国民がその通りに動くよう指示する思想教育の場だ。また、防犯やコロナ対策など、様々な目的で活用されている。

その場で配られる「講演提綱」という資料がある。講演会の内容をまとめたレジュメだが、これが頻繁に国外に流出している。提綱には、誰が見ても特に差し障りのないようなものから、海外に知られたくないものまで、様々な情報が含まれている。徹底した秘密主義の北朝鮮としては、国外流出を避けるために様々な策を取ってきたが、それを戒める文書さえ国外流出してしまう有様だ。

国外流出以外にも、極めてお粗末なところから、情報が漏れてしまうこともある。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が、あるエピソードを伝えた。

朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)は今月4日、党のイルクン(幹部)、保衛部(秘密警察)、安全部(警察署)の関係者を集めて緊急講演会を行った。テーマは「政治事業資料の回収、処理を責任を持って行うことについて」というものだ。

今回の講演会は中央から指示されたものではなく、道党で企画し、中央の批准を受けたものだ。そこで報告されたのは、文書管理が極めて杜撰に行われている実態だった。

道党宣伝部のあるイルクンは先月末、政治講演会、政治学習指導のため、道内の茂山(ムサン)に赴いた。朝鮮労働党茂山郡委員会宣伝部のイルクンの自宅に招かれ食事をしていたら酒に酔ってしまい、様々な特殊機密文書の入ったカバンを紛失してしまった。

道党宣伝部のイルクンは、カバン紛失の件を報告せず、ほとぼりが冷めるのを待とうと思ったようだが、どこからかバレてしまった。道党の関係者が、茂山郡宣伝部イルクンの自宅を訪れたところ、イルクンの老父が、機密書類をハサミで切って、タバコの巻紙として使っていたのを発見、全部を回収したという。

道党は、「このような機密書類には、様々な秘密が記されており、ちょっとした書類でも回収、処理を責任を持って行わなければ、内部の不純分子により敵どもの手に渡りかねないことを忘れてはならない」と強調した。

また、これらが国外に流出すると、社会主義のイメージが乱され、党と国の権威が毀損されるとして、その深刻さを自覚すべきだとも指摘した。真実を知られてはならないということだ。

また、今回は回収できたものの、国境沿いの地域から数多くの政治事業資料が南朝鮮(韓国)に売り払われているとして、摘発され、処罰を受けた者がいると指摘。あちこちに隠れ、社会主義の崩壊を虎視眈々を狙っている敵どもの手先のスパイの蠢動に注意し、各世帯、人民班(町内会)、組織で、これら資料や新聞、党や国の出版物の管理と回収を責任を持って行うよう呼びかけた。

ただ、国内向け資料の国外流出は、書類そのものが持ち出される形ではなく、その画像が中国製のメッセンジャーアプリを通じて転送されるケースがほとんどだ。書類の管理徹底に意味がないまでは言えなくとも、結局どう取り締まっても、北朝鮮の秘密主義が逆に国外流出を煽っていることに気づくべきだろう。