北朝鮮は国内事情が苦しいときほどガチガチに統制を強めて、耳にタコができるほど思想教育を繰り返す傾向がある。しかし、本当に経済難が深刻化すると、そうした「努力」をもってしても治安の悪化が止まらなくなる。

北朝鮮第二の都市、咸興(ハムン)では最近、窃盗などの犯罪が後を絶たない。その手口と当局の対策について、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

窃盗の手口は、昼間に留守宅に忍び込み盗みを働く空き巣が主だった。ところが最近では、独り暮らしの老人の家に、行商人や電気メーターの確認に訪れたふりをして、堂々と家に入り込み、有毒な睡眠剤を撒いて住民を眠らせた上で、家財道具を盗み出す。

この睡眠剤がどのようなものかは不明だが、首都・平壌では、意識ははっきりしているのに体が動かなくなるという特殊なガスを撒いて、盗みに及ぶ事例が報告されている。ちなみにこのときの犯人は軍人だった。

最近では、行商人を装っても玄関を開けてくれないことが多いため、電気メーターの確認を装うケースが増えているようだ。北朝鮮では1日に何度もメーターの確認が行われるため、住民は何の疑いもなくドアを開けてしまうようだ。

相次ぐ睡眠剤強盗の話は口コミネットワークで咸興市全体に広がり、ただでさえ苦しい生活を強いられている市民に不安がらせている。咸興市安全部(警察署)は大々的な捜査に乗り出し、先月初旬に容疑者の男性3人を現場で取り押さえることに成功した。

10日間にわたり取り調べを受けた彼らは、先月中旬、市内中心部の広場で公開裁判にかけられた。その場には市内の労働者や若者など多くの人が集まった。犯行に及んだ2人には5年の労働教化刑(懲役刑)、見張り役の1人には3年の刑が下された。

安全部は窃盗、暴行など社会秩序を乱す行為が多発していることから、見せしめのために公開裁判を行ったものと思われる。なお、刑法283条の個人財産窃盗罪の最高刑は8年以下の労働教化刑となっている。

公開裁判を見守った市民から出た反応は、見せしめ効果を狙った当局の意図とはずれたものだった。

「どれだけ苦しかったら若者が集団で泥棒をするのか」
「電気メーターのチェックを頻繁にやるから、犯罪者に利用されるのだ」
などと、当局のやり方に批判的な声が多かったという。

北朝鮮は現在、餓死者が出るほどの深刻な食糧不足に陥っているが、その原因は、新型コロナウイルスの国内流入を恐れた当局が、国境を封鎖し、貿易を停止させたことにある。つまり、人災だ。それが犯罪を激増させていることに北朝鮮国民も気づいているのだ。