国連被拘禁者処遇最低基準規則、通称マンデラ・ルール。文字通り、拘禁施設に収容された人に対して最低限保護されるべき原則を示したものだ。日本でもこれが守られているとは言えない。

名古屋刑務所では昨年、22人の刑務官のうち10人以上が受刑者に暴行を繰り返していたことで摘発されている。2001年には高圧ホースを肛門に当てて受刑者を死亡させる事件、その翌年には革手錠つきベルトで腹部を締め上げる事件が起きている。また入管施設では、ウィシュマ・サンダマリさんが医療ネグレクトの結果死亡したのをはじめ、2007年以降で18人の被収容者が死亡しているなど、マンデラ・ルール以前の問題が多発している。

一方で、世界最悪の人権侵害国家と呼ばれる北朝鮮。中でも最も人権侵害が著しいのが管理所(政治犯収容所)だ。ここの職員や警備兵には「収監者の人権を尊重せよ」ではなく、「するな」という教育が行われている。その内容をデイリーNK内部情報筋が伝えた。

管理所で勤務する兵士は警備、生産管理など様々な業務を行っており、それぞれが専門分野に関しての訓練、教育を受けているが、そのいずれに対しても行われているのが、「収監者を人間と思うな」ということだ。

「収監者は不倶戴天の敵、階級の敵なのできつく評価して観察せよ」
「おおよそ受け入れられない危険な考え方を持つ余地のある収監者は、現場で無慈悲に射殺して、後で報告せよ」

人権を守るどころか、問題になりそうな者はとりあえず射殺せよという常軌を逸した教育が行われている。

北朝鮮は、国際社会からの人権侵害の指摘、批判に反発しつつも、気にはしているようで、不十分とは言え、人権教育を行っている。ただ、公民権が奪われる受刑者の人権は尊重するどころか、むしろ「不倶戴天の敵」と悪魔化して、その生命すら尊重する必要がないと教育しているのだ。

「看守たちは、収監者を絶対に感性で捉えてはならない連中であるという精神的、思想的教育を強く受けている。(朝鮮労働)党と祖国、革命を裏切った者の末路は死ぬ瞬間まで最大限に苦痛に満ちたものであるべきという思想を、看守たちに植え付けるのが目的」(情報筋)

また看守という仕事は、「党と首領(金正恩総書記)の安全を守る要塞、盾であり、最も危険な者たちを管理する最も危険な革命階級戦の前哨戦に立つ革命戦士という聖なるもの」とし、収監者への拷問、虐待はむしろ革命性の発揮として評価されるという。

「人間として扱ってはならない」という教育がなされているだけあり、収監者に少しでも情けをかける看守は、すぐに異動させられる。看守の間では相互監視、動向報告システムがあり、収監者を人間的に扱ったり手加減したりするものがいれば、管理所から追い出されてしまうのだ。しかし、異動した先で、元看守は周りから白い目で見られる。

「管理所から別の部署に移動させられた人々は(管理所勤務だったことを)秘密にしているが、すぐに見破られてしまう。言動が荒々しく、品性下劣であると見なされることも多く、経歴がするにバレる」(情報筋)

受刑者のみならず、看守の人間性をも破壊するのが、北朝鮮の政治犯収容所なのだ。