朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の内部事情に詳しいデイリーNKの現地情報筋によると、軍総参謀部は今年1月、軍官(将校)を対象として行われる「土曜学習」の資料で、ある女性兵士が複数の男性将校および兵士により性的暴行を受けた事件について説明し、再発防止を強く訴えたという。

18歳の女性新兵が被害者となったその事件の様相は、資料を見た将校らが一様に顔をしかめるほど残忍なものだったという。

北朝鮮軍で、女性新兵が性暴力の「多重被害」を受けた具体例は過去3年間に、デイリーNKが把握したものだけで3件ある。また個別の事件の詳細は不明ながら、ある男性幹部が50人もの女性兵士に対し、常習的に性暴力を振るっていた例もあった。

北朝鮮軍内での性暴力蔓延は以前からのものだが、上層部がその事実を公的資料で指摘し、問題改善を訴えるようになったのは近年の動きだ。一説に、金正恩総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長が女性兵士の生活環境を気遣っているとも言われるから、その影響もあるのかもしれない。

また、軍当局が事件捜査に動き、上述した男性幹部のように、逮捕後に一罰百戒のため「見せしめ」的な処罰を行うこともあるようだ。

それでも、そうした例はごくわずかと言えるだろう。加害者が軽い処分で済まされ、むしろ被害者が理不尽な不利益を強いられることも少なくないようだ。

情報筋は「親にカネと権力があったり、あるいはそういうコネがあったりする家庭の娘の場合は、処罰を恐れて手を出そうとする者は少ない。そうでない家庭の子は、誰にも守ってもらえないのだ」と語る。

北朝鮮では女性も、高校を卒業する17歳になると兵役の対象になる。軍の実情を知る親たちは娘を守るため、カネとコネを総動員して兵役を免除してもらうか、マシな環境の舞台に配属してもらえるよう奔走するという。

しかし貧しい家庭の場合、朝鮮労働党への入党や大学進学の特典を期待できる兵役に、将来を賭けざるを得ないのだ。そして、それがまた上官につけ入る隙を与え、犯罪に露出する遠因となってしまう。

果たして、「金与正氏が女性兵士を気遣っている」というのは本当だろうか。金正恩・金与正の兄妹による王朝支配は気に食わないが、それがすぐに終わりそうもないのも事実だ。だったらせめて、金与正氏がその権力を行使し、本気で女性兵士を守るよう願いたいものだ。