「10兆円でも満足しない」

 ソフトバンクグループ(SBG)の2021年3月期の連結決算(国際会計基準)で、純利益が4兆9879億円に達したことがわかった。世界的株高の追い風を受けたことで、ファンド投資先の含み益が膨らみ、国内企業として過去最高の純利益を記録した。だが、SBGが手掛けるベンチャー企業投資で全て成功するのは不可能であり、同社の経営は「一寸先は闇」(金融機関幹部)とも言われる。孫正義会長兼社長が目指す「継続的に利益を出す仕組み」への道は険しそうだ。

「(自分は純利益が)5兆円、6兆円で満足する男ではない。10兆円でも満足しない」

 5月12日に行われた決算説明会で、孫氏は創業40年を迎えたSBGのさらなる業績拡大に自信を見せた。

 孫氏がSBGの前身の日本ソフトバンクを設立したのは1981年。「ソフトバンク」はソフトウエア販売、インターネット通信、携帯電話事業など中核事業を変えながら、企業規模を拡大してきた。2015年、ソフトバンクグループに社名を変更。2017年にはサウジアラビア政府系ファンドの「オイルマネー」などを呼び込んだ運用額10兆円の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」をグループ傘下に置き、それ以降は事業会社ではなく、傘下ファンドなどを通じて多数のベンチャー企業に投資する「戦略投資会社」へと完全に舵を切った。

「ちなみに、ソフトバンクの携帯事業などは、SBG傘下の上場企業となり、SBGはこれらの株式を持つ持株会社(投資会社)となっています。この時価総額には、携帯子会社の持ち分なども反映されていますが、すでに“本体事業”はありません」(経済記者)

 直近の21年3月期の決算は、その投資会社としての性格を鮮明に示す結果となった。純損益は、前期(20年3月期)に計上した過去最悪の9615億円の赤字から一転し、日本企業最高の黒字をはじき出した。SVFが投資する米料理宅配サービス「ドアダッシュ」、韓国ネット通販大手「クーパン」などが上場し、含み益が大きく膨らんだことが要因だった。ベテラン経済記者が説明する。

「昨年の決算は、新型コロナウイルス感染拡大で株式市場が世界的に下落し、SBGが運用するSVFや後進の2号投資ファンド(SVF2)、他にも傘下に収めている投資ファンドが深刻な損失計上に陥りました。しかし、各国の財政出動や中央銀行の金融緩和、さらにコロナ禍で急激に進むデジタル化を見越し、投資マネーがネット関連企業に集中したことで、状況が逆回転したのです。SVFに関連した投資損益は、6兆2920億円の黒字(前期は1兆8448億円の赤字)まで拡大しました」

「“砂上の楼閣”になるかもしれない」

 国内企業の純利益は、これまでトヨタ自動車が18年3月期に計上した2兆4939億円が最大だったが、SBGが今回計上した「純利益5兆円」はその2倍に相当する。直近の本決算で比較すると、世界トップの米アップル(6兆円強)、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコ(5兆円強)に続く世界3位となった。

「このことでSBGは、グローバル・エクセレント・カンパニーのひとつに数えられる実績になりました」(金融関係者)

 だが、グーグルやアップルといった米巨大IT企業「GAFA」が革新的なサービスで顧客を抱え込み、事業を拡大している。その一方、SBGの収益は投資先のベンチャー企業の企業価値と保有上場株の価値に左右され、金融市場の変動の影響が直撃しやすい。大手証券幹部は、「SBGの時価総額は直近で約15兆円と、GAFAの数割以下の水準にとどまり、株式市場の投資家達は厳しい視線でSBGを見ている」と言う。

 SBGのように上場した投資会社は米国に数多い。老舗のひとつで「オマハの賢人」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社「バークシャー・ハザウェイ」は、バフェット氏の高い運用成績で知られている。今回、SBGはバークシャーの直近の純利益(4.5兆円)を大きく上回ったが、時価総額ではバークシャーの70兆円超を下回ったままだ。投資ファンド幹部は、こう指摘する。

「安定株に投資するバークシャーと比べ、SBGはベンチャー投資が主体であり、経済環境が崩れたときのリスクが大きいとみられているからです。SBGの利益が“砂上の楼閣”になるかもしれないという危険性を、孫氏自身、もちろん認識はしています」

 だからこそ、孫氏は決算説明会で最高益について、「今回はたまたまが重なった程度なので、あまり胸を張って言える状況ではない」と語っている。さらに、投資先の英金融サービス「グリーンシル・キャピタル」の経営破綻などで損失が出ていることや、有力企業への投資に慎重になってしまったことなどを挙げ、「投資の失敗は謙虚に受け止める。『ばくち』ではなく、継続的に利益を出せる仕組みを作りたい」と話した。

「金の卵」はAI産業

 SBGが今後、「金の卵」(孫氏)として投資するのは、新型コロナウイルス感染拡大の後をにらんだ人工知能(AI)産業だ。SVF2号などではAIを活用した融資判断や動画編集、流通サポートなど幅広い事業に投資を始めた。もっとも、今後、インフレ懸念などが強まれば、成長が続いてきたIT産業でも株価は伸び悩む可能性がある。株価が下落すれば、20年3月期のように、積み上がったSBGの含み益が吹き飛ぶこともあるだろう。

 決算説明会の冒頭、「ほんの1年前には史上最大規模の赤字ということもありましたし、これから先も、株式相場の上がり下がりで、上がったり下がったりする。SBGにとっては1兆、2兆の赤字はニューノーマルだと、あまり驚かない方がいい」(孫氏)とうそぶいたが、

「株主にとってはたまったものではありません」(大手証券幹部)

 20年6月に開催されたSBGの定時株主総会では、株主から「孫氏の突っ走りに『ちょっと待った』をかけられる人が(取締役会に)いるのか」といった懸念の声も飛び出した。孫氏が良い意味でも悪い意味でもSBGの全権を事実上掌握しているのは間違いない。これからも、これまでの40年間と同様に、ソフトバンクの成功も失敗も孫氏の双肩にかかっている状況が続くとみられる。

 現在63歳の孫氏、これまでのところ、70歳になっても体調に問題がなければ「経営を続けたい」との意気込みを示している。しかし、

「SBGが中心となる事業を変え、投資で成功してきたのは孫さんの『先読みの力』に頼ってきた面が大きい。ポスト孫さんがSBGの中に見当たらないことは、投資会社としては懸念材料でしかありません」(金融機関幹部)

デイリー新潮取材班

2021年5月25日 掲載