昨年12月、すかいらーくレストランツが運営するガスト、バーミヤン、ジョナサン、夢庵、ステーキガスト、藍屋、グラッチェガーデンズの7ブランドが「アルコール1杯税込み99円キャンペーン」を実施し、業界の垣根を超えた反響を呼んだ。コロナ禍での外食不振対策、そして近年浸透しつつある「ファミレス飲み」に絡めた施策だが、その効果のほどは……。フードライターの適掃夫氏が取材した。

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 昨年の大みそかで終了した「99円キャンペーン」では、グラスビールやサワー、ワインなどがその対象だった。すかいらーくホールディングスが1月7日に発表したIRレポートによると、21年12月の既存店売上高は前年比プラス14・4%だった。約2年ぶりに放映したという2本のテレビCMや99円キャンペーンによって、ガストやバーミヤンでは売上が回復したものの、コロナ前の19年と比べると、既存店売上高はマイナス10・2%に留まっている。レポートは〈アルコール99円キャンペーンは対象商品の販売数が3倍以上になるなど大変好評。新規客および休眠客、また、若年層の獲得に貢献〉と振り返っているが、厳しい見方をすれば、赤字覚悟のアルコール99円キャンペーンでもコロナ以前には戻れない可能性が濃厚になってきた。

 年末にジョナサンを訪れた流通アナリストの渡辺広明氏が振り返る。

「キャンペーンはどんな感じなのだろうと気になっていたので、12月の日曜の夜10時ごろ、東京都の郊外にあるジョナサンに知人と入りました。時間が時間でしたが、お客様は2名様2組の計4人だけで、正直閑散としていましたね。タッチパネルでサワーを注文すると、焼酎と氷が入ったグラスが運ばれてきて、割り材は自分でドリンクバーへ取りに行く仕組み。お酒を注文するたびに『こちらもいかがでしょうか』とおつまみを提案してくるので、とりあえずフライドポテトとお酒を1杯ずつ2人で頼んで、税込み473円。一緒に行ったお酒好きの知人は『ここまでくると安すぎて罪悪感を覚える』と苦笑いしていました」

「ファミレス飲み」がウケた背景

 いわゆるファミレス飲みがメディアの注目を集めたのは2015年前後だ。ガストがちょい飲みをアピールし、牛丼大手の吉野家も「吉呑み」を展開し始め、当初は居酒屋よりも安く飲める意外なスポットとして注目を浴びた。この背景にはもともと歓送迎会などで使われる総合居酒屋に対する“抵抗”があったと渡辺氏は言う。

「良くも悪くも平凡なおつまみとビールを頼んで食べて、最後に割り勘で4000~5000円を払う従来の飲み会の形が、もったいないと思っていた人は僕だけじゃないはずです。こうした付き合いも良いのですが、それなら焼き肉店に行ったり、回転寿司に行ったりして、自分の好きなものを好きなだけ食べたい。そうした需要があるところにファミレス飲みがひとりで気軽に飲める場所を創出したことで、一定の支持を得られたのだと思います」

「何でもある」し、「何人でも入れる」強みで成長を遂げたのが「和民」や「魚民」といった大手居酒屋チェーンの総合居酒屋だ。ピークだった1992年には居酒屋・ビヤホール等の売上高は約1兆4629億円を記録(食の安全・安心財団「外食産業市場規模推移」参照)。

 しかし、「何でもある」から「何かがある」への消費者のシフトは止まらず、平成の終わりに存在感を増していたのは「鳥貴族」や「磯丸水産」など、専門居酒屋だったことは記憶に新しい。

「大手居酒屋チェーンの居酒屋は、新型コロナ感染拡大前の19年12月末と比べると、1200店以上が閉店しています。繁華街やターミナル駅周辺の大手居酒屋は、店舗面積が広くて雇用スタッフ数も多く運営コストが高かったからです。ワタミは昨年12月に『から揚げの天才』ブランドから、小規模なコンテナタイプの店舗を相模原市に出店しました。このことからも、いかに固定費を抑える店づくりが必要な時代か、がわかります」

ファミレスには「何もない」

 前述の「外食産業市場規模推移」で見ると、20年の居酒屋・ビヤホール等の売上高は6489億円まで縮小。もちろんファミレス業界も新型コロナで大打撃を受けている。不採算店の整理を進めるだけでなく、ファミレスがいち早く取り組んだのが営業時間の短縮だった。すかいらーくホールディングスは20年1〜4月にかけて約150店で24時間営業を廃止、グループ560店でも深夜営業時間を短縮している。業界第2位のサイゼリヤはコストや従業員の労働環境を見直した結果、22時までの営業に変更することを明らかにしている。

 感染力が高いとされるオミクロン株の急拡大で再び行動制限が強まれば、飲食業界の倒産がさらに増えることは間違いない。ファミレスはどうすれば生き残ることができるのか。

「僕の息子なんかもそうなんですが、若い世代はファミレスを『何でもあるけど、逆に何にもない』と言うんです。彼らが外食の候補としてファミレスの名前を挙げることはなくて、『コメダがいい』とか『さわやか(=静岡のハンバーグチェーン)に行きたい』と食べたいものがはっきりしていて、具体的。仮に家族の意見が割れたとしても、その時はそれぞれが好きなものを食べられるフードコートに行くことになります。おひとり様席や2人席を増やすなど、ファミレスが既にファミリー層以外を取り込む工夫を凝らしていることをお客様に伝えて、目的来店につながる新しいファミレス像を見せていかないと厳しいでしょう」

 都内でバーを経営しているオーナーはさらに手厳しい。

「ファミレスが集客のためにちょい飲みを進めるのは理解できます。でもアルコール1杯99円は本当に意味があるのか疑問。果たしてそれで常連客がつくのか。その値段に釣られてやってくる人は、正直お客様にならないと思う。ウチみたいなバーは狭いし、安くはないし、酒だって『何でもある』わけじゃない。でも『何かがある』としたら結局はお客さん同士の会話だったり、つながりだったりするんだと思う」

 何のために何を食べて何を飲むのか――。コロナ禍で継続的に外食の機会を奪われた私たちは知らず知らずのうちにシビアに考えるようになっているのかもしれない。

適掃夫(てき・ぱきお)
都内に住む30代サラリーマン。小学生のとき、母親の手伝いで料理に目覚め、兄の夜食を作るようになる。大学時代にはカジュアルイタリアンの厨房でアルバイト。就職後は自炊することがなかったが、3年前にアーティストとして働く妻と結婚して家事全般を担当。猛スピードで掃除洗濯をこなす様子から妻に「テキパキオ」と名付けられる。PB食品の食べ比べがスーパーの売り場徘徊が趣味。蛇口とシンクを磨くのが好きで、行きつけの飲み屋の閉店作業に加わりがち。ツイッターは「@tekipakio」

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
マーケティングアナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、静岡朝日テレビ『とびっきりしずおか!』、ニッポン放送『垣花正あなたとハッピー!』レギュラーコメンテーター。

デイリー新潮編集部