バブル超えの過去最高値

 コロナ禍にウクライナ危機、物価上昇まで加わって日本経済が一層の冷え込みを見せるなか、不動産市場の過熱に歯止めがかからない。

 昨年までは「東京五輪が閉幕すれば不動産市場はピークアウトする」という声も少なくなかった。また、コロナ禍でのリモートワークの普及やステイホームの長期化によって、「住む場所は都心でなくともよいのでは?」「より広くて、部屋数の多い郊外物件も視野に入れてみよう」と考える人々が増えていたのも間違いない。

 しかし、蓋を開けてみれば、東京をはじめとする首都圏のマンション価格は、五輪後も変わらず上昇を続けている。もはや「コロナバブル」や「コロナ特需」という言葉で片付けることは難しい。不動産経済研究所が4月18日に発表した2021年度の〈首都圏新築分譲マンション市場動向〉を見れば、その異様なまでの“活況”ぶりは明らかだ。

 2021年4月から今年3月までに首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で発売されたマンションは3万2872戸で、前年度比13.2%増。18年度以来、3年ぶりに3万戸台を突破した。

 新築マンション1戸当たりの平均価格は6360万円となり、バブル期(1990年度)の6214万円を上回る過去最高値を記録。さらに、いまだタワーマンション人気が衰えない東京23区に限れば、平均価格は8449万円に達している。

「資材費」高騰が直撃

 これまで20年以上にわたってマンション開発を中心とする不動産ビジネスに携わってきた筆者は、昨年2月24日に寄稿した「デイリー新潮」の記事で次のように書いた。

〈「コロナバブル」という言葉には些か違和感がある。結論から先に述べると、今後もマンション・戸建てともに不動産価格は上昇を続けると思われる〉

 実際、その通りになったわけだが、不動産業界に身を置く人間であれば、誰もが同じように考えていたはずだ。そして、不動産価格は今後も値を上げ続けることになるだろう。なぜなら、現在の状況が「バブル」ではなく「原価高」、とりわけ労務費(人件費)と「資材費」の高騰に起因するからに他ならない。

 たとえば、ビル、マンション、ホテルの梁や、土留(どどめ/採掘時に周辺土砂の崩壊を防止する工事)に用いられる建設向け鋼材の代表格「H形鋼」。以前からの資源高に加え、ロシアによるウクライナ侵攻で鉄鉱石など原料の供給不安に拍車がかかり、H型鋼はこの1年間で4割近く価格が上昇している。このまま円安ドル高が進めば、さらに輸入価格を押し上げる可能性が懸念される。

今夏以降はさらなる高騰も

 加えて、住宅は「躯体」すなわち「器」だけで完成するわけではなく、そこに様々な設備が集まって初めて販売可能となる。問題は、台所やお風呂、トイレといった各々の設備(住設)も危機的な状況に見舞われていることにある。

 鋼板や樹脂の仕入れ価格が上昇したことで、システムキッチンやユニットバスなどの価格は軒並み上昇。また、コロナ禍で東南アジアの工場が操業停止に追い込まれた影響で半導体の生産が滞り、温水洗浄便座や給湯器も品薄と値上げが続く。原油高でこれまで以上に輸送コストがかさむことを加味すれば、今後も価格上昇は避けられない状況だ。

 端的に言えば、「住宅」にはコロナ禍や資源高、円安などがもたらす経済的なマイナス要因のすべてが圧し掛かっているわけである。今夏以降は、長期化するウクライナ危機の影響も本格的に顕在化するようになる。このまま資材費がアップし続ければ、マンション価格がさらなる高騰を見せることは言うまでもない。

 無論、こうした状況はマンションだけでなく戸建て住宅にも悪影響を及ぼす。世界有数の森林大国・ロシアからの木材輸入が困難になることで、第二次「ウッドショック」に発展することも懸念され、そうなれば戸建て住宅の価格も高騰しかねない。

「念願のマイホーム」は夢物語に――

 それでも、国内外の富裕層は首都圏のマンションを購入し続けるだろう。世界を見渡せば、日本の高級マンションはまだ「安い」と考えているからだ。また、郊外よりも都心のマンションの方がリセールバリュー(再販価格)は圧倒的に高い。そのことも人気の高止まり状態を支えている。

 現在のマンション事情に寂しさと虚しさを感じているのは、著者を含む不動産業界の人間も同じだ。私たちは、一般家庭の「一生に一度の買い物」に関わることに矜持を抱いてきた。しかし、新築マンションの平均価格が6000万円を大きく上回る状況では、一般家庭向けのマンションを建てること自体が困難だ。サラリーマン家庭にとって「念願のマイホーム」は、もはや夢物語となりつつある。

山中琢人(やまなか・たくと)
2002年に早稲田大学卒業後、マンションデベロッパーとゼネコンの双方に勤務。12年より京都在住。

デイリー新潮編集部