「逮捕されるかも」

 史上最長とされるTOBの陰で、なぜか、ドロ沼の離婚劇が進んでいた。元ソニー会長の出井伸之氏が取締役会議長を務める投資ファンド「メタキャピタル」が「澤田HD(ホールディングス)」にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けたのは、2020年2月のこと。TOBは買い付け期間の延長が繰り返され、翌21年7月までの343日間にも及んだ。

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 実は、このTOBを思いも寄らないことに利用した人物が存在した。「タワー投資顧問」の「U」という40代後半のファンドマネジャーだ。

 澤田HDは「エイチ・アイ・エス」の澤田秀雄会長がトップを務め、筆頭株主として29.58%の株式を持つ会社。タワー投資顧問は、澤田会長に次いで、澤田HDの27.87%の株式を保有する大株主。TOB開始当日、そのうち1.75%の株式を売却している。

 U氏の妻が語るには、

「20年2月の終わりのこと。突然、勤務中のはずの夫が日中、自宅へ戻ってきました。そのとき、“インサイダーで逮捕されるかもしれない”“このままでは会社から損害賠償を請求されかねない”と怯えた様子で打ち明けたのです」

離婚届提出の5日後

 U氏は妻に、澤田HD売却の過程でミスを犯してしまったと告げたという。

「全財産を失い、娘が入学したスイスの全寮制学校の学費も払えなくなると、夫は言い出しました。その打開策として切り出してきたのが、“偽装離婚”です。“一旦籍を抜き、財産分与というかたちなら贈与税もかからず、まとまった現金を渡せる”と。そのうえで、“しばらくして落ち着いたら、また結婚すればいいじゃないか”と説得されました」

 その結果、20年3月に離婚が成立した。

「ところが、夫は役所に離婚届を持って行ったきり、自宅に戻らなくなりました。服や身の回りのものも置いたままです。当初、インサイダーでの逮捕に備え、私に迷惑をかけないように家を出たのかなと解釈していました」

 夫の身を案じたU氏の妻が探偵に調査依頼したところ、衝撃的な事実が発覚する。離婚届提出の5日後、U氏は別の女性と再婚し、14日後には子どもまで生まれていたのだ。

「週刊新潮」2022年5月5・12日号「MONEY」欄の有料版では、TOBが史上最長となった理由と経緯をはじめ、U氏の妻が起こした詐欺的離婚の取消訴訟で判明した事実を詳報する。

「週刊新潮」2022年5月5・12日号 掲載