秋ドラマが中盤に差し掛かった。プライム帯(午後7〜同11時)の16作品のうち、ストーリーが分かりにくいと酷評されているのはフジテレビの月9「ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜」(月曜午後9時)だが、その視聴率はワースト5に入っていない。本当に低視聴率なのはどの作品か。理由も考察する。(視聴率は11月6〜同12日、ビデオリサーチ調べ、関東地区)
本当に視聴率が悪いドラマとその理由
秋ドラマの視聴率ワースト5を見てみたい。個人全体視聴率を基準とする。2020年4月以降、世帯視聴率はNHKも民放も使っていないからだ。各社内はもちろん、株主報告書の指標も個人全体視聴率である。
さらにコア視聴率も付記する。個人全体視聴率のうち、13〜49歳を切り取ったのがコア視聴率。民放のスポンサーは若者からミドルまでの視聴者を特に望んでいるため、個人全体視聴率時代への移行とともに重視されるようになった。
ワースト1位は篠原涼子(50)と山崎育三郎(37)が主演のテレビ東京「ハイエナ」(金曜午後8時)で、個人1.5%、コア0.5%(世帯2.6%)。ちなみに、おおよその及第点は個人が3%程度、コアは2%程度とされているから、かなり深刻な数字だ。
このドラマは2020年に韓国で大ヒットしたドラマのリメイク。食いついたら離さないハイエナのような弁護士・結希凛子を篠原が演じている。一方、山崎は超エリート弁護士・一条怜役。凛子と対立を繰り返すものの、恋心を抱いてしまう。
主演2人には安定感があるし、共演陣も一条の上司の弁護士役に高橋克典(58)を配するなど重厚感がある。しかし、いかんせんストーリーが平凡。旧来のリーガルドラマの域を出ておらず、新鮮味が乏しい。これが低視聴率の理由ではないか。
それより大きいのが放送枠の認知度の低さ。テレ東は2013年から、この枠を「金曜8時のドラマ」と称し、人情推理ドラマ「駐在刑事」(2018年)などミドルから高齢者をメインターゲットにしたドラマを放送してきた。
民放ビジネスは昔も今も視聴率で動く
それを今年4月からは「ドラマ8」に衣替えし、ターゲットをやや若い世代にシフト。福士蒼汰(30)が演じる悪徳弁護士を主人公とする春ドラマ「弁護士ソドム」などを放送してきたものの、浸透していない。
「金曜8時のドラマ」が「ドラマ8」へ変更された背景には、世帯視聴率から個人全体視聴率への移行がある。その番組を観ている家の割合しか調べない世帯視聴率の場合、高齢者の好む番組が圧倒的に有利なのだ。
極端な少子高齢化で高齢者は人数が多く、しかもテレビをよく観るからである。世帯視聴率は家族の誰かが1人でも観れば上がるから、高齢者に受けの良い番組は浮上する。
なにしろ、20代が平日1日にテレビを観る時間は約1時間29分なのに対し、70代は約5時間半(2022年、総務省調べ)なのだ。もはや世帯視聴率で番組の人気度を判断するのは至難の業。それもあってテレビ界は使わなくなった。
民放ビジネスは昔も今も視聴率で動く。「視聴率時代は終わった」とする向きもあるが、それは実情から懸け離れている。各局の株主報告書を一目見たら、現実が瞬く間に分かる。
民放で昨年度の全日帯(午前6時〜深夜0時)の個人全体視聴率とコア視聴率のトップはともに日テレだった。当然、CM売上高も断トツで約2369億800万円を記録した。
「今は放送ではなくTVerなどの無料動画の時代」とする声もあるが、これも現実離れしている。その広告売上高はCM売上高の30〜50分の1に過ぎない。
関東と関西で数字に開きがある理由は
ワースト2位は制作・朝日放送(大阪)、テレビ朝日系の「たとえあなたを忘れても」(日曜午後10時)で個人1.9%、コア0.8%(世帯3.%)。一方、朝日放送のある関西では、同じ12日放送分の視聴率が個人3.0%(世帯5.2%)である。
随分と数字に開きがある。古くからテレ朝と朝日放送は独立性が強く、その分、番組宣伝の相互協力がうまくいっているとは言い難い部分がある。それも影響しているのかも知れない。
このドラマはピアニストになる目標をあきらめた河野美璃(堀田真由・25)が東京を離れ、神戸で音楽教室の講師を始める。そしてキッチンカーのオーナー・青木空(萩原利久・24)と知り合い、親しくなる。だが、空には記憶を失ってしまう解離性健忘症という障害があり、美璃のことも一度は忘れてしまった。美璃の好意はどうなるのか。
初主演の堀田 ら俳優陣の演技はいい。しかし、あえて苦言を呈すと、そろそろラブストーリーは障がいや難病から離れてもいいのではないか。愛はいかなる困難も乗り越えることを訴えたいのだろうが、それなら障がいや難病を登場させなくても出来るはず。
評判高い「大奥」も視聴率は惨敗中
ワースト3位はNHK「ドラマ10 大奥 Season2」(火曜午後10時)で、個人1.8%、コア0.6%(世帯3.4%)。男女が逆転した江戸時代を舞台に美しい人間と醜い人間を映し出している。
質は秋ドラマで1、2を争い、おそらく今年1月〜3月まで放送された「大奥 Season1」より上だろう。ところが、数字は低い。前作より個人もコアも数字を1%ほど落としている。
前作は徳川家光(堀田真由)や綱吉(仲里依紗・34)の純愛に時間が割かれた。今作は青沼(村雨辰剛・35)や平賀源内(鈴木杏・36)らによる感染症「赤面疱瘡」の戦いや一橋治済(仲間由紀恵・44)や松平定信(安達祐実・42)の権力闘争が中心。内容が重いからか。
放送枠の力も極端なまでに弱い。「ドラマ10」の前作で桜井ユキ(36)が主演した「満点のゴール」の9月26日放送分も個人1.7%、コア0.7%(世帯3.3%)しかなかった。評判高かった「正直不動産」の昨年4月19日放送分ですら個人2.8%、コア1.5%(世帯6.1%)である。認知度アップが急務だろう。
競合ドラマに敗れた「パリビ孔明」
ワースト4位はフジ「パリビ孔明」(水曜午後10時)で個人2.1%、コア1.6%(世帯3.8%)。中国の三国時代の天才軍師・諸葛孔明(向井修・41)が現代の東京・渋谷に転生し、シンガーソングライター・月見英子(上白石萌歌・23)の歌声に魅了される。そこで彼女のマネージメントを買って出て、成功に導く。
これ以上なく荒唐無稽な設定なのだが、音楽業界の実態などがリアルに描かれているから、説得力がある。笑えるドラマだ。
それでも低視聴率。理由は明解である。裏に日テレの「コタツのない家」があるからだ。こちらの同じ8日の視聴率は個人3.5%、コア2.4%(世帯6.0%)。この時間帯のPUT(総個人視聴率=個人全体視聴率の合算)は20%程度しかないから、どうしても食い合う。
フジが水曜午後10時をドラマ枠とし、日テレと正面衝突するようになったのは昨年の春ドラマから。視聴率面だけ見ると、今年の夏ドラマまでは日テレの4勝1敗1分け。とりわけライバル意識が強い両局だが、そろそろどちらかが枠移動を考えてもいいのではないか。
トップは同率の2作品
ワースト5位は「いちばんすきな花」(木曜午後10時)で個人2.5%、コア1.5%(世帯4.7%)。主演は多部未華子(34)、松下洸平(36)、今田美桜(26)、神尾楓珠(24)の4人だ。脚本家の個性が濃厚に表れている作品だから、そもそもブームをつくり上げない限り、高視聴率は難しい。制作陣も想定していた数字ではないか。
個性の強さの一例は、松下が演じる春木椿と神尾が演じる佐藤紅葉のやり取り。泊まりに来た紅葉を見送る際の言葉を、春木は考える。
「なんて言ったらいいんだろう」(春木)
結局、「またおいで」に落ち着く。「そんな言葉、どうでもいいじゃないか」と考える視聴者には向かない。
トップはTBS「日曜劇場 下剋上球児」(日曜午後9時)で個人6.4%、コア3.2%(世帯10.3%)。そして同率でテレ朝「相棒 season22」(水曜午後9時)の個人6.4%、コア2.5%(世帯11.1%)である。
後半から終盤の支持はどう変わるか。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。
デイリー新潮編集部