活動の勢いがあまりにもすさまじい

 自衛隊芸人のやす子の勢いが止まらない。自衛隊で培った底なしの体力と「はいー」という口癖がお馴染みの人気者だ。オリコンの「2023年ブレイク芸人ランキング」では1位に輝き、今もテレビで見ない日はないほどの活躍ぶりだ。

 最近では、2月10日放送の「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」(フジテレビ系)に出演して、スタッフ50人から土下座されるというドッキリ企画が話題になっていた。別の番組内で「ドッキリGP」に不満を漏らしていたことを受けて、スタッフが猛反省して謝罪する、というものだった。慌てたやす子は土下座で返すという対応を見せていた。

 2021年1月1日放送の「おもしろ荘」に出演してから、順調に活躍を続けている。そんな中で、やす子の勢いがあまりにもすさまじいため、一発屋になってしまうのではないかと危惧する人も現れた。

「今すごく消費されているから心配」

 ポッドキャスト番組「アンガールズのジャンピン」(ニッポン放送)で、アンガールズの山根良顕は、一発屋芸人に関する話題が出たときに、やす子を名指しして「一発屋になる可能性が高い」「今すごく消費されているから心配」と語った。

 これを聞いた相方の田中卓志は、やす子は過去の一発屋芸人のように特定のネタ(ギャグ)で注目されているわけではないし、共演したときにも彼女がいると現場が明るくなることから、その心配はないと反論した。

 実際にやす子が一発屋になる可能性はあるのだろうか。その可能性について改めて考えてみたい。

 まず、現状を見れば、やす子が大ブレーク しているのは明らかなので、すでに大きな「一発」を当てているのは間違いない。過去の事例では、ここから急激に勢いが衰えて消えてしまう人もいれば、軟着陸してそのまま生き残る人もいる。今後どうなるのかということが問題になる。

必ずしも“仕事ゼロ”ではない「一発屋芸人」

 はっきり言ってしまうと、一発屋芸人と言われる人も、すぐに仕事がゼロになるわけではない。ピークのときよりも全国ネットのテレビに出る機会が減ると、世間では「消えた」と決めつけられがちだが、必ずしも仕事がなくなっているわけではない。その後も地方局の仕事や営業やライブなどでしぶとく生き残っている芸人の方が多く、それを「消えた」の一言で片付けるのは短絡的である。

 お笑い界では、ある時期に集中的に一発屋芸人と呼ばれる人がたくさん出てきたことがあった。それは、2000年代(2000〜2009年)前半のお笑いブームの時代である。この頃には「エンタの神様」「爆笑レッドカーペット」といったネタ番組が人気を博していて、それらの番組から毎週のように人気者が輩出されていた。

 そのため、その中からのちに一発屋と呼ばれる人も続々と出てきていた。当時の芸人は今よりも一発屋になりやすかった。なぜなら、テレビの影響力が圧倒的に強く、YouTubeなどのほかのメディアが発達していなかったため、テレビに出なくなると終わりだと見なされていたからだ。

一発屋が以前よりも生まれにくい状況に

 しかも、当時は今よりもネタ番組以外のお笑い要素の多いバラエティ番組は少なかった。一発屋的な芸人はピンポイントでギャグやネタだけを求められることが多く、その人の性格や人格にスポットが当たることがなかった。

 今はテレビ以外のメディアもたくさんあるし、芸人もバラエティ番組で乱暴に扱われることが少なくなり、その人の個性に合わせた企画が用意されることが多くなっている。そんな現在の状況では、一昔前のように芸人がすぐに消費されて一発屋になる、ということは起こりにくいのではないか。

 もちろん将来のことは誰にもわからないが、現場での評価も高いやす子が、すぐに消えるとは考えられない。山根の危惧は、先輩芸人からの期待感の裏返しだと好意的に解釈するべきだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部