今シーズンいちばんの話題作ナイトドラマといえば、「おっさんずラブ」(テレビ朝日)で間違いない。公式ツイッターや公式インスタグラム、また、黒澤武蔵名義のインスタグラムアカウントまで、毎週多くの熱いコメントが寄せられる一大旋風を巻き起こしている。

 春田創一(田中圭)はモテない33歳、不動産業。彼を恋い慕う上司として黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、ひょんなことから春田と同居することになった牧凌太(林遣都)から思いを寄せられ、人生最大にして最高の大騒ぎとなるモテ期を描くラブコメディだ。

 春田の魅力は、これまで「鈍感さ」にあると私は考えてきた。1話から徹底して描かれているのは春田の人間性の良さ、老若男女問わず誰しもを惹き付け、愛されるキャラクターだ。「鈍感さ」が「お人好し」として人々に認められている間は、彼は愛すべき「はるたん」である。

 そんな春田に惹かれたのが、しごとは成績優秀、家事は完璧、表向きは強気なドS男子、牧である。しかし牧は春田に恋する中で、自分ばかりが好きで春田は自分を「家事のデキる同居人」以上に思ってくれていないのではないか……と思い悩んでいるふしがある。第5話では、そんな牧の不安を、春田は「俺にとって牧と一緒にいることは恥ずかしいことでもなんでもないから」とにっこり彼を安心させた……だが、しかし。

 第6話の冒頭で、春田は、職場で「俺と牧は付き合ってます」と、本人の同意のないカミングアウト(アウティング)を行ってしまった。幸い牧の心には大きな傷は残らなかったものの、視聴者の(主に私の)「春田、そこじゃない!」感が徐々に表れてきたのが第6話だったのではないだろうか。いい意味で魅力として描かれてきた春田の「鈍感さ」が、どんどん裏目に出てきている。相変わらず、黙らせるために牧から春田にキスを仕掛けるなどのときめく演出は数あれど、あれ、おかしいな……今までみたいに無邪気にきゅんきゅんできない。

 むしろ、栗林歌麻呂(金子大地)が武蔵の元妻・蝶子(大塚寧々)に惚れたり、武川政宗(眞島秀和)が今でも本当に牧を大切に思っているアツい気持ちにほだされてしまう。春田に比べて、周囲の人間たちの方が遥かに主体的に恋を進めたり、見つめ直したりしているのが気になる。春田、どうかその素敵な顔芸だけでなく、内面の成長も大いに見せてほしい。

 牧が春田を不意に自分の実家に誘った出来事は、彼の「本当に愛されているのか?」という不安定な心持ちがひしひしと伝わってきてしまい、切なさを感じた。春田は、自分がみんなに振り回されていると思っているかもしれないが、実は春田こそがみんなの心をかき乱し、それに対するケアをできない、良く言えば純朴、悪く言えば優柔不断な存在なのだ。そのことが、やや腹立たしくなってきてしまった。ああ、でも牧の実家から帰宅途中に、牧が春田に食らわした牧キックはとっても幸せそうで可愛かったなあ……。おっと脱線脱線。

 蝶子と離婚した武蔵は、彼女と作戦を練り、春田の奪回を試みる。モデルルームでの武蔵と春田の場面は、いくら恋に年齢、性別は関係ないからと言っても、社会的地位の差はあるので、ちょっとセクハラ的にアウトなラインじゃないかしら……と片目をつぶって見ていることにした。今のところ、武蔵は春田の心を射止めるには至っていない。

 さて、ここで考えてみたい。「幸せ」とは「好き」とは何か。「ともに暮らす」ということはどういうことなのか。

 牧には、実家に妹がいる。母と妹は牧のセクシュアリティを理解しているようだ。一方、牧が偶然家で出くわした春田の母は、牧に「早く孫の顔が見たいわ」と無神経な言葉を突き刺してしまう。いや、ただのルームメイトでしかなく、目の前にいる牧が息子の恋人であるなんて、母は思いも寄らないはずだから仕方ないのだが、「結婚して子どもを生む」ということが幸せの「正解」なのか? という問いが投げられたように感じた。

 そして、春田の幼なじみ荒井ちず(内田理央)は、春田へ思いを伝えた。ちずは春田と付き合うことも結婚すらも望んでいなかった。ただ、自分の気持ちに区切りをつけたかっただけ。これも純粋に、人を思う気持ちだ。だが、涙をこぼしながら「好き」と言うちずを春田は思わず抱きしめてしまった。ここあたりから、筆者の「春田ッ、ちょっとここへ座れ!」モードが発動してしまい、説教したくてたまらなくなってきた。ちずを抱く春田を見てしまった牧……。所詮、自分は春田を幸せにはできない。そう思った牧は、春田と別れ、家を去ることを選んだ。春田、お前のせいだよ!

 涙で顔をぐしゃぐしゃに歪ませ「俺は……春田さんのことなんか好きじゃない!」と春田を跳ね退ける牧の姿は、全身から「本当は春田さんのことが大好きです! どうして僕を安心させてくれないんですか!」という悲痛な叫びが聞こえるようだった。春田も目を赤く潤ませていたものの、牧の深い思いに気づいてやれていたかは定かでない。いや、絶対気づいていない。だから説教したい。

 それはともかく、現代日本社会では、男性と女性の異性愛者が「お付き合い」を経て「結婚」し、「子どもを産み育てる」というひとつの決められたストーリーが、呪いのように染み付いている。まだまだ同性愛者がそれらのストーリーに乗ることは難しく、逆に言えば、ヘテロセクシャルの人間しか想定していないような「幸せ」の定義しかこの国には今までなかったのだということだ。

 幸せを願う時に、考えるべきことはこの3つではないだろうか。「どこで」「誰と」「どう暮らすか」。

 そんなことをしみじみ考えていたら、急に物語が「1年後」とやらに飛び、春田と武蔵が同棲して仲良く朝ご飯を食べているシーンで終わったもんだから、もうこの1週間、本気でおっさんたちの幸せについて悩んじゃったよ! 春田、何なの? 牧をあんな捨て方しておいて、どうして武蔵と一緒にへらへら暮らせるの? そんな男だったの春田は? あ、いや、武蔵さんはおめでとうございます。でも……あれ?

 いやはや、泣いても笑っても2日(土)23:15〜が最終回。春田が1年かけてたどり着いた、本当に自分の「好きな人」に向かって走っていく姿を何より楽しみにしている。「おっさんずラブ」は、今までただのお人好しであった春田が、自発的に誰かを好きだと心に決め、そのために別の誰かを選ぶことはできないというシビアな選択に直面する、成長物語だと信じている。

 春田、あなたが、一生側に居てほしいと願う相手は、誰ですか?

西野由季子

2018年6月2日 掲載