このドラマをどう説明したらよいか、悩む。私が得意な「単語の羅列で文章力のなさを誤魔化す」方式でいくならば、「奸計(かんけい)・仇討ち・怪奇譚」。「エロスにアクションありのホラーサスペンス」。「音と湿度の映像美で魅せる自然の摂理と人間の業」。あーなんかどれも安っぽくなっちゃう。言葉ではうまく表せないから、とにかく観てくれ、この秀逸な作品を。「令和元年版 怪談牡丹燈籠」である。

 初回から息を呑む。腕に覚えのある旗本・高嶋政宏が刀剣商を訪れる。己の不遇に絶望し、酒に酔ってイチャモンをつけてきたのが浪人の神尾佑。高嶋は内に秘めた殺人衝動に駆られて、店内で神尾を斬り殺してしまう。「よく斬れる刀とはこういうことか!」と思わず唸る映像。そこに剣豪の驕りと欲望、そして快感を重ねる生々しさ。これが発端であり、すべての悲劇と愛憎劇へと繋がっていく。

 主演は尾野真千子。高嶋の病弱な妻の侍女だ。聡明だが、勝ち気で上昇志向も強い。高嶋の一人娘・上白石萌音(かみしらいしもね)や侍女の戸田菜穂からは毛嫌いされる。この尾野が色仕掛けで高嶋を籠絡(ろうらく)、愛人に昇格するも、金と性に対する強欲っぷりは果てしない。高嶋殺害計画にお家乗っ取りを企む、筋金入りの悪女を演じる。尾野に粉かけて、ある意味巻き込まれる間男が柄本佑だ。親戚中の鼻つまみ者だが、居合の腕は立つという。

「え、どこに怪談牡丹燈籠が?」と思うかもしれない。そこは上白石の萌音氏ががっつり引っ張るわけよ。親が遺した土地と長屋の店賃でのほほんと暮らす浪人・中村七之助に恋をしちゃって、さあ大変。相思相愛になるも、身分の違いで引き離され。恋に焦がれて焦がれ死に(たぶん心筋梗塞)してしまう。責任を感じた侍女の戸田まで、後追い自殺。

 長屋住まいの七之助のもとへ、夜な夜な牡丹燈籠を手に訪れるふたり。霊に憑かれて2晩いたして、死相まで出ちゃう七之助。陰陽師(笹野高史)や僧侶(伊武雅刀)の手を借り、除霊大作戦を始めたものの……。下駄の音、冷気と湿気、これぞ怪談と鳥肌たてつつ、萌音の狂気と戸田の母心に心奪われる。美しく物悲しい。

 そうそう、長屋の段田安則と犬山イヌコ夫妻が絶妙な顔芸で、貧乏人の小心と強欲をきっちり画面に残す。

「ん? 仇討ちはどこへ」まあ、そう焦るでない。そっちは若葉竜也がひとりで宿命を背負うから。剣豪である高嶋の元へ志願してきた若葉。酒乱で母に暴力をふるう父を憎んでいた。その父とは、高嶋に斬り殺された神尾だった。高嶋はそれを知りつつも、若葉を召し取る。忠義を誓う若葉だが、高嶋が父を殺した張本人とはつゆしらず。尾野の奸計を嗅ぎつけるも主君には言えず。どうやら複雑な構造の仇討ちになる気配。

 台詞の端々には人間のあさましさやおぞましさ、滑稽さが滲み出る。清冽な映像と融合させる妙に喝采だ。

 そうそう、語りは神田松之丞。落語・講談・人形浄瑠璃、伝統芸能へのリスペクトも忘れずに。NHKとしても完璧だよ。民放局の嫉妬を一身に背負う作品だ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2019年10月31日号 掲載