2019年を振り返ると、ドラマは豊作だった印象がある。NHKは大河も朝ドラ(後期)もよかったし、よるドラも秀作揃い。こきおろしてきた日テレやフジのドラマに心奪われる時間が増えたし、TBSは超傑作と駄作で緩急つけて飽きさせないし、テレ東のニッチ路線はトップレベルの秀作輩出に成功したし、BSテレ東の暗躍も捨て置けない。ParaviやNetflixが送りこむ刺客も心底楽しめたし。で、問題はテレ朝である。

 昨年、テレ朝関連は3本しか原稿に書いていない。うち2本はイチャモンで、1本は大下容子アナの観察日記だ。テレ朝のドラマに心が動かなかったように見えるが、平日昼の15分弱、私のルーティン視聴はテレ朝だった。脚本・倉本聰のメッセージが強すぎて、中毒症状を引き起こす問題作「やすらぎの刻〜道」である。

 シニア世代をターゲットに、老年の主張てんこ盛りのドラマなのだが、案外シニア世代は観ていないのでは、という疑惑もある。むしろ響いているのはこの世代のジュニアつまり40・50代。倉本ワールド「昨日、悲別で」や「北の国から」を観て育った私の世代が心ときめく設定もあるからだ。

 3つの時代パートを行き来しつつ描かれてきたので、短くまとめるのは至難の業。私が受けとめたキーワードでまとめるなら、昭和編は「戦争反対」「徴兵拒否」「山窩(さんか)(戸籍制度を拒んで山に暮らす民)の矜持(きょうじ)」だ。現在展開中の平成編は「あぶく銭と消費至上主義」「喪失感」かな。各パートに普遍的な強いメッセージが詰まっていて、公共放送でも醸し出せない重みがある。

 が、なんといっても惹きつけられるのは、やはり現代編。特殊な老人ホームが舞台ではあるが、老いの現実をコミカルかつシニカルに描いているからだ。多少のダンディズムやヒロイズムに鼻白むというか、古臭さを感じる部分もあるが、それも込みで愛でている。

 やすらぎワールドを一度も観たことがない人に、どう伝えたらいいか、考えた。今の時代は長い文章ではなく、十数文字のキャッチで釣る。煽情的な惹句(じゃっく)がいい。

「止まらない万引き、反省しない老人」「虚言癖に認知症、部屋は汚物まみれに」「暇を持て余す老人が偽札密造に賭博三昧!」「利用者と職員がまさかの決闘」「薬物騒動の歌舞伎役者を匿う施設と反社の魔の手」「テレビを俗物にした芸人軍団への恨み節」「テレビ局の阿漕(あこぎ)な手法と手のひら返し」「大女優、実はテレビ局重鎮の愛人だった」なんて書けば釣れるだろうか。

 でもそれだけじゃないんだわ、今回のやすらぎは。尊厳死やリビングウィルについても触れ、積極的な見解を提示。老いだけでなく、病や死に対してもきっちり意思表示。シニア世代だからこそ明確にしてほしいことがぎゅっと詰まっている。

 石坂浩二は施設内の騒動に巻き込まれて右往左往する主人公で、冷静な傍観者でもあり、壮大な物語の作り手でもある。これ以上の適役はいない。名優たちの共演も「ひとつのドラマ史」としての価値がある。そこはテレ朝に感謝を伝えたい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2020年1月2・9日号 掲載