綾野剛(38)と星野源(39)のダブル主演ドラマ「MIU404」(TBS、金曜午後10時)の評判がいい。6月26日放送の初回は世帯視聴率が13・1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。放送終了後にはツイッターの世界トレンドで1位となった。

 若い女性に特に人気の高い綾野剛と星野源のダブル主演作で、脚本は「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS、2016)などの野木亜紀子さん(45)である。その上、プロデューサーは「わたし、定時で帰ります。」(2019)などの新井順子さんだから、スポンサー大歓迎のF1層(女性で20〜34歳)をメーンターゲットにした甘口の刑事ドラマかと思ったら、まるで違った。ハードボイルド臭も漂うエンターテインメント刑事ドラマである。

 自主規制や経費の都合で最近の刑事ドラマではカーアクションやバイオレンスをあまり見なくなったが、「MIU404」にはふんだんに詰め込まれているのが嬉しい。現役のやんちゃな若い男性や元不良少年のオヤジ、不良に憧れていたオヤジの心にも届くのではないか。

 当代屈指のストーリーテラーである野木さんの脚本だけあって、物語全体的に面白い。ジョークの散りばめられたセリフが冴えている。テンポも抜群だ。

 設定からして目を瞠るものだった。月並みの刑事ドラマには食傷していたが、このドラマの舞台は警視庁刑事部機動捜査隊(通称・機捜=英名はMobile Investigative Unitで略してMIU)。機捜が過去にドラマになったのは沢口靖子(55)が主演した同じTBSの2時間ドラマシリーズ「警視庁機動捜査隊216」(2010〜19)くらい。なので、新鮮だ。

 機捜は実在し、「MIU404」内での説明通り、事件の初動捜査を担当している。勤務体制は(1)当番日=朝9時から翌朝9時まで勤務(2)非番日=朝9時から翌朝9時まで非番(3)公休日=休み―――。当番日には隊員が2人1組で覆面パトカーに乗って、管轄区域を回ったり、分駐所から事件現場に急行したり。刑事部の先兵のような存在である。

 このドラマの設定では、警視庁の働き方改革により、前述の通り3日に一度の当番日を4日に一度とすることに。このため、隊員を4人増やし、3隊だった機捜を4隊にする。新設の4機捜に配属されたのが、綾野扮する伊吹藍巡査部長と星野が演じる志摩一未らである。この2人がコンビを組む。

 急場しのぎの寄せ集め集団だったこともあり、伊吹は筋金入りの問題人物。麻布中央署の刑事だった時に逮捕した犯人を殴り続けた上、拳銃まで抜いた。そのペナルティとして奥多摩署に8年間左遷されていた。

 伊吹はそれで懲りたかというと、そんなことはまるでなくて、志摩に言わせると「野生のバカ」。すぐ感情的になり、ルールを守れない。おまけに聞き込みではメモを取らず、何を聞いたか忘れてしまう。あきれた刑事なのだ。

 規律を重んじる志摩は伊吹に対し、初回の69分間(15分間拡大)で6回もぶちキレた。上司と部下の関係ではなく、巡査部長同士の対等なバディなのだから、随分と多い。ここまで相手にキレるバディ物は珍しい。

 初回の終盤、ついに志摩は伊吹を思いっきりぶん殴る。これもバディ物では例外的だろう。なぜ志摩が殴ったかというと、伊吹が捕らえた容疑者に対し、「苦しまずに殺してやる」と脅し、拳銃で撃つことまでほのめかしたからだ。実際にはその気がなく、容疑者をからかっただけだったが、志摩は余計に怒った。

 志摩は今後も逆上し、それを売り物にする異色のバディ物になるのだろうか。それとも徐々に伊吹と心を通わせるのか? 現代のバディ物のスタンダードである「相棒」(テレビ朝日)は、息の合った2人が協力して事件を解決するが、それとはまるで違う形なので、興をそそられる。新しい。

 志摩のほうは頭脳明晰で冷静沈着。とはいえ、単なる優等生ではないようだ。エリート集団の捜査1課からドロップアウトし、4機捜隊長・桔梗ゆづる警視(麻生久美子、42)の運転手に左遷されていたという経歴を持つ。

 おまけに「自分のことが正義だと思っている奴が一番嫌い」「自分も他人も信用しない」というから、複雑な人物なのだろう。

 さて、機捜には車が付き物。ドラマの初回では事件現場に急行する途中で、煽り運転をしている後続車がいたため、これを捕らえた。

 ハンドルを握っていたのは伊吹。煽られた当初は「メッチャ煽られている」と笑い、平静を装っていたが、野生のバカであるから黙っているはずがなく、志摩の制止する声に対し、「こういうのは舐められちゃダメ」。本来は機捜の仕事ではないが、交通違反で捕らえようと躍起になる。

 伊吹の怒りがさらに募ったのはこの後。違反車両が猛スピードで逃げていたところ、横断歩道を渡ろうとしていた高齢の女性が驚き、転倒したからである。

「この野郎!」(伊吹)

 欠点だらけの伊吹だが、高齢者や子供など弱い立場の人にはとことん優しいらしい。これが伊吹の魅力なのだろう。

 やがて伊吹は違反車両を追い詰め、その前方にまわり、覆面パトカーをサイドターンさせて停めた。難易度の高いテクニックだ。そもそも公道でやるのは不可能である。迷惑だし、捕まる。

 その後の伊吹は違反車両のドアのガラスを叩きながら「おい、こら!開けろ!」。この辺は故・原田芳雄さんや故・松田優作さんが演じた昭和のアウトロー刑事の匂いがして、やはり元不良少年のオヤジや不良に憧れたオヤジには心地良かったのではないか。

 綾野剛は「コウノドリ」(TBS、2015)で演じた産婦人科医・鴻鳥サクラのような思慮深い人物から、映画「新宿スワン」(2015)の白鳥龍彦のようなアウトローにまで、なりきってしまう。今回の伊吹も違和感をまったく抱かせない。本当にうまい人なのだろう。

 志摩もカーチェイスを演じた。追跡していた容疑者の車両が赤信号を無視し、通行人を跳ね飛ばしそうになったため、前方にまわり込み、車体を楯にした。代わりに志摩の車は大破する。

 志摩の車は進行方向が一気に180度変わったので、おそらくスピンターンを用いたのだろう。こちらも高度なテクニックだ。刑事ドラマでもまずお目にかかれない。

 車が計2台、廃車になった。スケールは違うものの、カーアクションも昭和の刑事ドラマ「西部警察」(テレビ朝日、1979)を思い起こさせた。やはりオヤジ族の胸を熱くさせるドラマである気がする。

 さて、もう1人の主演の星野源もうまい人だ。シリアスもコメディもなんでもできてしまう。歌手でもあるため、口跡(セリフの言いまわし、声の質)が抜群。表情や仕草で感情を伝える芝居も絶妙だ。このドラマでもそれが存分に発揮されている。

 例えば、伊吹が札付きだと知り、異動を阻止しようとしたものの、間に合わなかった時の失望や、あるいは伊吹が高齢者や子供に優しく、悪い奴ではないと知った時のかすかな喜びを、巧みに伝えている。

 綾野と星野の波長が合うかどうかという問題があるが、2人は「コウノドリ」で共演したことなどから仲が良く、問題なしだろう。

 星野はリモートで行われた制作発表で、このドラマの魅力について、「このバディの関係は(過去に)一切ないと思う」と語っている。

 新旧の刑事ドラマの良さがバランスよく混じり合った作品になるのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月3日 掲載