今回のコロナ禍でテレビドラマ撮影がストップしたことによって、この4月スタート予定だったテレビの連ドラの多くはOA延期となり、各局のドラマ放映時間帯には過去のドラマの再放送が相次いだ。

 そんな中、20年前にスタートしたドラマ「トリック」の20周年キャンペーンがこの7月から始まり、視聴者は様々な形で「再放送」を観られることになった。

 「トリック」シリーズ中、最初の連ドラとなった「トリック」シーズン1(計10話)は2000年7月7日、テレ朝「金曜ナイトドラマ」(23時09分〜深夜0時4分)枠の深夜時間帯の連ドラとしてスタートした。

 主人公の仲間由紀恵演じる自称売れっ子マジシャン・山田奈緒子と、阿部寛扮する見栄っ張りの天才物理学者・上田次郎のキャラクターとその絡みが面白く、また謎解きミステリーとコミカルなテイストを融合させた世界も話題になった。

 他の堤幸彦監督作品の「ケイゾク」「スペック」同様、回を重ねるごとにマニアックなファンが次第に増え、2002年にはシーズン2が放送、2003年のシーズン3ではテレ朝「木曜ドラマ」というゴールデン枠でのOAになった。その後現在までに連続ドラマシリーズが3シーズン分、スペシャルドラマ3本、映画4本が制作されるに至る人気ドラマとなったのがこの「トリック」だ。

 ドラマは毎回、山田奈緒子と上田次郎が超常現象にまつわる奇妙な事件に巻き込まれ、手品や物理学の知識を駆使して、そのインチキを暴いていくという形で展開していく。その構図は一貫して「奈緒子・上田vsインチキ霊能者」というシンプルで、基本的にはわかり易いものだった。

 一方、全体的にコメディ要素やパロディ要素を取り入れた構成になっていて、これも「トリック」人気の理由の一つだった。

 例えば、こんなことがあった。

 山田奈緒子の母・山田里美(野際陽子)は田舎で習字教室を営んでいて、教室には生徒の書いた習字がたくさん飾ってある。

 当時、その裏番組だった日テレ「金曜ロードショー」では視聴率を必ず稼ぐ“テッパンのコンテンツ”として宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」が時々OAされていたが、この「風の谷のナウシカ」をOAする日の「トリック」ではこの書道教室に“何度目だ?ナウシカ”と書かれた子供の作品がさりげなく置かれていたりした。

 それは、「俺らが「トリック」やってる同じ時間帯、テッパンのナウシカを放送するの一体何回目なのよ? ちょっとは遠慮してよね〜!」という番組側のメッセージで、それを観た視聴者はそこらへんの事情をさっと察知し、思わずニヤッとしたりもした。

 こうした他局ネタや時事ネタ、出演者・制作スタッフや舞台裏の事情にまつわる楽屋ネタなどの小ネタ、更にはストーリーには関係のないギャグやおちゃらけが随所に挿入され、それも「トリック」の大きな魅力の一つになっていた。

 20年前、私自身もこの「変わったドラマ」にハマり、毎週金曜日の放送を楽しみにしていたひとりだった。

 そんな形で人気ドラマになっていった「トリック」が今年20周年という節目にあたり、これを機に「#まさかのトリック20周年」キャンペーンが実施されることになった。

「トリック」を観ていた「経験者」にとって今回の再放送はまあ「同窓会」みたいなものだから、今回のキャンペーンの観方などに気を遣う必要はない。そのキャンペーンスケジュールを確認して、時間が合えば放送を観て懐かしがったり、この20年に思いを馳せたりすればいいだけだろう。

 しかし、現在20歳〜25歳以下で「トリック」未経験者の人は、たくさん用意された「トリック」配信スケジュールの中で「何をどこから観たらいいのかなあ」と思うかもしれない。

 そして、おそらくこの「配信の海」の中で、例えば観る順番を失敗すると、「トリック」の面白さを十分満喫できないという残念なことになってしまうだろう。

 まずは今回の「#まさかのトリック20周年」での「トリック」配信内容とそのキャンペーンを確認しよう。

(1)7月7日夜11時9分より、「tvasahi YouTubeチャンネル」では、シーズン1の第1話「母之泉」を公開。

(2)同時刻7月7日夜11時9分より、動画配信プラットフォーム「TELASA」の「トリック」シリーズラインナップに劇場版4作品が加わる。これにより、連続ドラマ、SPドラマ、スピンオフ「警部補 矢部謙三」シリーズなど、「トリック」シリーズ計全57話がコンプリート配信となる。

(3)同日、CSテレ朝チャンネル1では「母之泉」に加え、堤監督がセレクトしたおススメエピソード、撮影秘話などを放送。

(4)7月10日、17日の深夜2時50分から、テレビ朝日では傑作選としてシーズン1の最終話「黒門島」を放送。

(5)「トリック」Twitter公式アカウント(@sayonara_trick)も復活。リモート会議などで使用できる「奈緒子の部屋」と「上田の研究室」の壁紙をTwitter上で配布予定。

 この中で初心者が最もやってはいけない「トリック」との最悪の“ファーストコンタクト”とは、この(4)から観始めることだ。

「『トリック』シーズン1は、奈緒子・上田vsインチキ霊能者というシンプルな構図であり、基本的にはわかり易いもの」だと前述したが、ドラマにはもう一つ“奈緒子の父の死を巡る謎”という大きなテーマがあり、上記(4)で配信されるシーズン1の9話目と10話目の「黒門島」はドラマの最後に設定された最大の「謎解き話」なのである。これを観てから、一話目に戻るという順番はあり得ない。なので、いくら民放地上波で放送されて無料で観られるからといって、初心者は(4)から観てはいけない。

 次に、あまりお勧めしない「トリック」ファーストコンタクト方法とは、(1)の「tvasahi YouTubeチャンネル」シーズン1の第1話「母之泉」を観ることだ。本来、順番的にはシーズン1の1話目から観るのは当然だが……。

 問題なのは、ここで配信されるものが「1話目のみ」という点にある。

 かつて「トリック」を観た人ならお分かりだろうが、菅井きんが新興宗教の教祖を演じる「トリック」1話目は3話目までが続きの話となっていて、1〜3話目までで1セットとなっている。

 だから、1話目だけ観ても、視聴者は欲求不満になるだけでなんのカタルシスも得られない。逆に配信する側からすれば「YouTubeで1話目だけ観せておいて、あとは有料プラットフォーム「TELASA」で観てもらおう」ということなのだろうが、ちょっとこれはいただけない。

 やるのなら、YouTubeチャンネルでシーズン1の1〜3話目まで観せ、「その後の話を観るなら「TELASA」へ」という形で誘導すればよいはずである。

 以前、日テレ「あなたの番です」の番組終了時、毎回「ドラマのアナザーストーリーを観るなら、Huluで!」と、アナザーストーリーをエサに民放ドラマから「Hulu」へと誘導をかけて、少なからぬ人がSNSなどで結構批判をしていた。

 しかし、あれは本編とは異なる「アナザーストーリー」という話で誘導していたわけなのであってある意味可愛いものだが、今回のドラマ本編の1話目だけを観せておいて「TELASA」へと誘導するのはちょっと露骨すぎやしないか。

 そうなると、結局、「初めて「トリック」を観る人も最初から「TELASA」で見放題がいいんじゃないの?」という意見を持つ人もいるかもしれない。まあ、月額500円ちょっとのサブスクを受け入れれば、「トリック」関連すべてを最初から観られるのだから、それが一番だという判断もあるだろう。

 ただし、万が一「トリック」を少し観てみたら“このドラマ、自分には合わないかも…”と感じる人だっているかもしれない。

 そのリスクを考えると、上記「tvasahi YouTubeチャンネル」でシーズン1の第1話目を観た後、旧作で廉価になったレンタルDVDを借りシーズン1の第2話と第3話までを観てから自分と「トリック」が合うか合わないかを考え、サブスクの「TELASA」を検討する……という手なんかが、案外いいのかもしれない。

 コロナ以前は、テレビのドラマは“古いものより、新しいものの方に価値がある”という価値観を視聴者もドラマ制作側も完全に共有していた。

 しかし、コロナ以降、ドラマ制作の予定が立たないことから地上波テレビでも再放送のドラマが増え、観る側もそんな視聴環境にたった数か月で慣れていった。

 地上波テレビで再放送ドラマの持つ文脈が大きく変化をした後、今度は動画配信プラットフォーム上でも再放送ドラマの文脈が大きく変化し、それに伴い販売戦略が大きく変化しようとしている。

 今回の「トリック」の「#まさかのトリック20周年」キャンペーンはそうした流れの象徴であり、今後他局でも旧作にフォーカスを当てたいろいろなキャンペーンが出てくるのではないだろうか。

尾崎尚之(@YuuyakeBangohan)/編集者

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月7日 掲載