秋ドラマが始まった。柴咲コウ(39)が主演し、遊川和彦氏(64)が脚本を書く「35歳の少女」(日本テレビ、土曜午後10時)が10月10日にスタートし、翌11日には妻夫木聡(39)の主演で東野圭吾氏(64)が原作者の「危険なビーナス」(TBS、日曜午後9時)が始まった。両ドラマとも話題作。どちらかが秋ドラマの覇者になるのか?

 秋ドラマの話題作が2日続けてスタートした。初回の世帯視聴率は「35歳の少女」が11・1%で、「危険なビーナス」が同14・1%(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。ともに上々の滑り出しだった。

「35歳の少女」の主人公は時岡望美(柴咲コウ)。10歳の時、自転車事故に遭い、ずっと昏睡状態だったが、25年が過ぎた今、奇跡的に意識を回復した。だから心は10歳で体は35歳。浦島太郎に近い。

 だが、喜んでばかりはいられない。時の流れは冷酷だった。望美が眠っている間に母・時岡多恵(鈴木保奈美、54)と父・今村進次(田中哲司、54)は離婚。素直だった妹の時岡愛美(橋本愛、24)は刺々しい性格になってしまった。お互いに初恋の相手だった広瀬結人(坂口健太郎、29)は世を拗ねた嫌味な男になっていた。

 25年も時が流れたのだから、十分あり得る話。けれど、望美はその現実を10歳の心でいきなり見せられたから、たまらない。子供のように泣く。いや、実際に内面は子供なのだ。

 この場面は見ていて辛かった人も多いのではないか。どんな理由であろうが、子供が泣き叫ぶのを見るのは心痛い。柴咲が好演し、自分を10歳と思い込ませることに成功した表れでもあるだろう。

 悲しい現実は両親の離婚だけではなかった。母・多恵は疲れ切っていた。望美の介護を一人でしてきた一方で、生計を立てるため、保険外交員として働き詰めだったからだ。おまけに今後の生活も不安だらけ。

 父・進次は加奈(富田靖子、51)という女性と再婚したが、連れ子の達也(竜星涼、27)は引きこもり。暴力もふるうらしい。進次は達也に怯えながら暮らしている。

 愛美は広告代理店で働き、仕事も出来るものの、性格に難があるらしく、恋人が次々と去っていく。だから孤独だ。結人は望美の進言に沿い、希望を胸に抱いて小学校教師になったが、ある事件がきっかけとなって辞めてしまった。

 望美が昏睡状態に入る前にはみんな幸せだった。けれど25年が過ぎたら、みんな不幸になっていた。これもまた現実社会でも起こり得る話だろう。

 遊川作品の特色の1つは、見る側に考えさせること。楽しませるだけの作品はまずない。考えさせる手段として、時には視聴者に不幸を突き付ける。ほかのドラマが幸福ばかり描いていることへのアンチテーゼでもあるのだろう。考えさせるドラマを書くという点では山田太一氏(86)、倉本聰氏(85)の両巨匠と共通する。

 遊川氏の代表作「家政婦のミタ」(日本テレビ、2011)もそうだった。松嶋菜々子(47)が演じた主人公・三田灯はなぜか無感情で、そのわけは物語の終盤まで伏せられていた。やがて明かされた理由は自分のせいで家族が次々と亡くなったからだった。

 遊川氏が視聴者側に考えさせたかったことの1つは、強い喪失感からの自己の回復だったように思う。生きることの意義が分からなくなっていた灯は派遣先の阿須田家で慕われ、家族のために働くようになるうち、失っていた自分を取り戻していく。

 放送は2011年の東日本大震災の半年後だった。最終回の世帯視聴率が40・0%にも達した背景には、視聴者があまたの同胞を失ったことによる強い喪失感に打ちひしがれていたことがあるように思う。

「35歳の少女」は何を考えさせるつもりだろう。初回では、まず痛烈なメッセージを投げ掛けた。望美は眠りに落ちる直前、学校でこんな作文を読み上げていた。

「21世紀はきっと戦争も差別もなくなり世界中の人がうちの家族のように笑顔で暮らしている」

 気の利いた10歳なら、こんな作文を書いても不思議はない。ただし、現実がどうなっているかは書くまでもない。誰のせいか。少なくとも眠っていた望美の責任ではない。

 物語のカギとなるのは名作児童文学『モモ』(ミヒャエル・エンデ著)。時間を盗む男たちとモモが対決する物語である。読むうち、時間の大切さを知ることになる。遊川氏も、つい人が忘れそうになる時間というものが持つ意味を考えさせようとしているのではないか。

 世帯視聴率は驚くほど高くはなかったが、メディアやドラマを研究する学者らは一様に賞賛している。質という点では、このドラマが秋ドラマで一番の評価を獲得しそうだ。

キャスティングが評判の「危険なビーナス」

 片や「危険なビーナス」は筆頭プロデューサーが共同テレビの橋本芙美氏(41)。やはり2011年の東日本大震災の1カ月半後に放送され、大ヒットした「マルモのおきて」(フジテレビ)をプロデュースした人である。疑似家族の愛情を温かい視点で描いた。

 ただし、今回は作風がまるで違う。東野圭吾ミステリーだ。主人公は獣医・手島伯朗(妻夫木聡、39)で、正義感が強い好漢だが、美女にはすこぶる弱いのが欠点。この設定は原作の通りで、不惑が近づいても青年のような雰囲気を失わない妻夫木には適役だろう。

 ヒロインは吉高由里子(32)。伯朗の異父弟・矢神明人(染谷将太、28)の妻を一方的に名乗る謎の女性・楓を演じる。原作では奔放な女性で、これもドラマでの吉高と一致する。

 物語は名家である矢神家の30億円の遺産をめぐるラブ&サスペンス。伯朗は突然訪ねてきた楓から「明人さんは失踪した」と告げられ、一緒に探して欲しいと頼まれる。

 もっとも、そもそも楓だって相当怪しい。本当に明人の妻なのか。未入籍である上、結婚を約束した証もない。

 仮に失踪が本当だとしたら、明人はなぜ消えたのだろう。楓は相続絡みで矢神家の誰かにさらわれたと主張しているが、本当にそうか。ただし、遺産争いが起きているのは事実。伯朗は熾烈な争いの深層を探る。

 このドラマについて芸能プロダクションの間で評判なのが、豪華キャストだ。例えば主演級の役者であるディーン・フジオカ(40)が、3番手の扱いで出ている。役柄は矢神勇磨。矢神家の養子で、遺産を狙っている一人だ。映画では主演級の染谷将太は4番手。染谷はドラマで主演することもある人だから、確かに贅沢な布陣と言える。

 この放送枠「日曜劇場」の前作「半沢直樹」の全話平均視聴率は24・7%で、爆発的ヒットを記録したのは知られている通り。やはり豪華キャストで、「制作費が上積みされているのではないか」と噂されたが、今回も普段より制作費がプラスされているのか。いずれにせよ、視聴者には悪い話ではない。

 初回は25分拡大で放送されたが、瞬く間に終わった感がある。脚色が巧みだったからだろう。今後、上々の視聴率を維持できるかどうかも脚色にかかっているだろう。

 原作は東野作品らしく伏線がいくつも張りめぐらされ、それが最後までにきっちりと回収される。物足りない思いを抱かせない。原作の読了後に味わえる満足感をドラマでも与えられるどうかがカギになるはずだ。

 こちらは世帯視聴率争いでのトップ候補だろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月17日 掲載