片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)×作詞家・小竹正人 往復書簡16

 小竹が7年前に書いた小説が映画化されるにあたり、その舞台となったタワマンで過ごした2年間を振り返る。20年来の芸能界の親友、そして片寄まで同じマンションに住むことになる不思議な縁のある場所で……。

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 拝啓 片寄涼太様

 いきなり宣伝めいたことから書き始めること、容赦あれ。

 7年前に私が初めて書いた小説『空に住む』が、鬼才・青山真治監督によって映画化され、無事に公開の運びとなりました。

 原作とはかなり異なる部分があったので、一視聴者として客観的に鑑賞することができ、純粋にものすごーく好きなテイストの作品だと思いました。

 実は私、この小説が出版されてから一度も読み返していなかったのだが、映画化の前の文庫本化にあたり再読を余儀なくされ、7年ぶりに読んだ。そして、どうしても思い出してしまったんです、あのマンションと私の最愛の存在だった猫のことを。

『空に住む』は、1人の女性(映画では多部未華子さんが演じてくれました)がタワーマンションに住むことになり、そこで様々な稀有な経験をしながら、自分自身が抱えるジレンマや悩み、不毛な恋、愛猫の闘病と死を乗り越えていくというお話。

 このストーリーで私の実生活と完全にリンクしていたのが、「タワーマンション(当時は「高層マンション」と言われていた)の高層階に引っ越したこと」と「引っ越した数か月後、愛猫が難病にかかり壮絶な闘病生活の末に死んでしまったこと」だった。

 君と出会うか出会わないかの頃です。

 住んでいたのは約2年間だったが、私はそのマンションで口にも筆にも尽くせない波乱万丈な日々を送った。

 作詞やそれ以外の仕事が今までとは比べ物にならないくらい増え、毎晩のように有意義な会食があり、そりゃもう多忙な日々の中、突然愛する飼い猫が病気になった。

「悪性メラノーマ」という聞いたこともない難病で、恐ろしいくらいの速さで症状が悪化し、一日に何度も薬を服ませたり注射を打ったりしなくてはならなかった。

 体重が半分以下に減って、顔面が腫瘍で覆いつくされ、見るも無残な姿になっても私はその猫がいとおしくて仕方なかった。

 昔からひとりでいる時間が一番好きで、ずっと「孤独が親友」などと嘯(うそぶ)いていた私の唯一のパートナーがその猫だった。

 今思うと、私は「愛猫」を「人間」だと思いながらその存在に依存していた。

 数か月に及ぶ闘病生活を終え、彼女を見送ったあと、仕事をしているとき以外の私は抜け殻のようになり、本当の孤独がどんなに寂しいものか初めて身をもって知り、「とにかくあの闘病生活と死のことだけは書き残しておかなくては」と、図らずも何かにとり憑かれたかのように『空に住む』を書き上げた。それが「悼む」ことだと思った。

 小説を読み返すのは、辛い記憶の蓋をこじ開けるようなものだったので、ずっとそれを避けていた。

 だから今回久しぶりに読み返したとき、自分の文章の粗末さへの羞恥と共に、あの猫への変わらぬ愛しさと、介護を頑張っていた自分への憐憫(れんびん)みたいな想いがどっと溢れた。そうなったってことは、私は猫の死やら過去の自分やらをちゃんと認められたのかもなあと思った。

 なんか、しめっぽくなってしまった。ごめん。

 とは言っても、あのマンションに悲しい思い出ばかりがあるわけではない。

 今まで使ったことがなかった色んなハイテク設備には本当に感動したし、窓からの眺めは飽くことのない大パノラマだったし、住んでいた2年で百曲くらいの歌詞を大好きなアーティストたちに書かせてもらったし、何故か友人知人がやたらと近所に住んでいたのでしょっちゅう行き来して楽しい時間を過ごせたし。

 私の20年来の親友の妻夫木聡くんが偶然同じ時期にそのマンションに引っ越して、「こんな偶然あるのか!?」って2人で歓喜し合ったことも懐かしい。

 つまり、公私共にとても充実していたので、素敵な思い出も今まで住んだどのマンションより多い。

 そして不思議なのが、私が『空に住む』を書き終えて、あのマンションから引っ越した数年後、涼太がまさかのあのマンションに住んだこと。

 なんだか私にとってはやたらと「縁」とか「運命」みたいな言葉が似合う場所となった。

 ってことで、君に「縁」や「運命」をテーマにした歌詞を歌ってほしい……っていうのはうまくまとめすぎだね。

 もちろん、そういう歌詞も歌ってほしいが、今君に書くなら、80年代後半のアメリカ映画みたいな歌詞を書きたい。

「コインランドリー」とか「サンタモニカ・ブルバード(道の名前)」とか「桟橋」とか「工場地帯」とか「レモネード」とか「ガレージセール」とか、錆びついているような単語が並ぶ曲。決して恋愛の歌詞ではなく、孤独な自分と淡々と向き合うような生活感の漂う歌詞がいいなあ。

 自分の20代の頃の心の軌跡を君になぞってほしいのかも。絶対に万人受けしなそうだけどね。

小竹正人

敬具

片寄涼太 Ryota Katayose
GENERATIONS from EXILE TRIBEのボーカル。1994年8月29日生まれ。大阪府八尾市出身。祖父と父が音楽教師で、若いころからピアノに親しむ。2012年にデビュー。14年にドラマ「GTO」で俳優デビュー。19年に映画「午前0時、キスしに来てよ」で橋本環奈とW主演。GENERATIONS「You & I」が配信中。11月18日にGENERATIONS 24枚目のシングル「Loading...」の発売が決定。

小竹正人 Masato Odake
作詞家。3月10日生まれ。新潟県出身。東京・本郷高校、カリフォルニア州立大学卒業。 作詞曲「Unfair World」で第57回日本レコード大賞受賞。「花火」(三代目J SOUL Brothers from EXILE TRIBE)など、数百曲を手掛けた。小説は『空に住む』『三角のオーロラ』(共に講談社)、歌詞&エッセイ集に『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎文庫)。2017年から、自身の歌詞をモチーフに、三池崇史、行定勲、河瀬直美、石井裕也らが映像化する「CINEMA FIGHTERS project」のコンセプトプロデューサーを務める。

2020年11月8日 掲載