片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)×作詞家・小竹正人 往復書簡 特別編

 10月23日に公開された「空に住む」は、青山真治監督が7年ぶりにメガホンを取った。両親をなくした喪失感から抜け出せない主人公の編集者・小早川直実(多部未華子)が叔父の計らいでタワマンの一室に住むところから物語は始まる。同じマンションに住むスター俳優・時戸森則(岩田剛典)との出会い、愛するネコの死……。原作『空に住む』(講談社)の著者・小竹正人が語る「映画版の魅力」。

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――不思議な感じの映画ですね。都会のタワマンでの日々やスターとの出会いはどこか現実感が希薄で、勤務先は郊外の出版社だったりして、都会とそことの往来にも独特の浮遊感を抱きました。

小竹:多分原作がジメジメしすぎてて、それに哲学みたいなのを加えた結果でしょうか。青山監督はすごい哲学的な人で、セリフなどにきちんとそういった姿勢が注入されているように感じました。この映画、とても好きです。

――映画の好きなところは?

小竹:監督にとりあえず「猫のことだけは小説に近い感じで描いてください。あとはお任せします」って言って。出来上がったらその通りに原作通りの所が結構あったのと、遠回しに原作と結びつくみたいなところもたくさんありました。

 映画の中で、直実は時戸のインタビュー本を完成させることで猫の死にけじめをつけるようなところがありますが、私の場合、原作を仕上げることで、同じように猫の死へのけじめをつけたところがあります。

 あの原作は、書いていて本当に辛くて辛くて辛くてどうしようも無かったんですけど、全部書くからどうかみんなもうちの猫の死を悼んでください! そして私に同情もしてください! みたいな思いで、猫のことを細かく描写したところがありました。主人公と同じく、病気になった猫の世話を私も黙々とひとりきりでやっていたから尚更。

 高橋洋さん演じる編集長や(タワマンのコンシェルジュ役の)柄本明さん、(ペット葬儀屋役の)永瀬(正敏)君たちのセリフがメソメソしておらず、芯があるなぁとも感じましたね。

 いきなり高層マンションとかに住んじゃったりするから、あの小説をただのシンデレラ・ストーリーみたいに思う人が多い中で、彼らのセリフによって、その部分が軽減された気がします。

 あと、映画を観ていて、私にとっては高層マンションでの出来事が現実で、郊外の出版社でのシーンがファンタジーな感じがしました。

わざとらしい芝居を一切しないんだなぁという印象

――青山監督とは?

小竹:私は昔、永瀬正敏君の現場付き人みたいなのを社会勉強としてやっていたことがあって、その時に永瀬君が出ていた映画の一本で助監督をやっていたのが青山監督でした。

 すごく背が高くてロン毛で存在感がすごかったから、「スタッフっていうより映画俳優みたいな人だな」って思っていて、それから30年後に「空に住む」で再会したということですね。

 それなりに今回、お話をしましたが、何を言っても自分の中に飲み込んで、「そうですか」って言うタイプの方で、ぽんぽん会話が弾んだことがあまりなかったです(笑)。

 これは何かのインタビューで多部未華子さんも言っていたんだけど「監督がどういう人なのか未だに分かりません」って。それは私も同じ。

 嫌な印象とかは一切なくて、「この人本当に、物事を達観した修行僧みたいなところあるな〜」って思いながらぼそぼそと会話を交わす……みたいなことが多かったです。

――多部さんについては?

小竹:多部未華子さんの名前が挙がってきて、「多部未華子、ぴったりだな」って思って、実現したらいいなって思っていました。いわゆるキラキラ女子ではないから、彼女の持っている普通っぽくないけど普通ってところがぴったりだなと。

 普通っぽいけど普通じゃない感じってことでもあるんだろうけど、そもそも多部未華子さんが30(歳)超えてるとか知らなくて。すごい昔から見ているから、学生の役をやっていた子っていう印象がずっとあって、でも「あれ、この子、原作の直実より年上なんだ」と改めて気づかされました。

「主役になったよ」っていうのを聞いてから、“多部未華子ウォッチャー”みたいになってここ数年の彼女の作品を色々見たら、わざとらしい芝居を一切しないんだなぁという印象を持ちましたね。どんどん魅了されていっちゃって。

演者2人にオムライスを振る舞った過去について

――岩ちゃん(岩田剛典)はどうでした?

小竹:事務所の人に「時戸役に岩ちゃんは?」って言われて、「え、岩ちゃん?」って一瞬ポカンとなったんだけど、すぐに「そっかぴったりじゃん!」と思いまして。

「本当だ、灯台下暗し! こんな身近なところにいたよすごい候補が」と。で、本当に岩ちゃんがやってくれることになって、しかも名演してくれて。原作を書いていた頃には「岩ちゃん=時戸」みたいなのは1ミリも無かったのに、7、8年の時がそうさせたんだなと。

――映画の中で、おいしいオムライスを直実が時戸に作るシーンがありますね。

小竹:はい、私は料理が案外得意で、過去に永瀬君にも岩ちゃんにもオムライスを作ったことがあるんですね。

 永瀬君は十代からの友達だから、私の作る昔ながらのオムライスが一番旨いって何十年も前から言ってくれていて。岩ちゃんは、「家飲み」みたいなのを何年か前に大勢でしたときに、酔っ払って私がふわとろデミグラオムライスを作ったら一口食べて「小竹さんこれやばいです」って真顔で言って。

 オムライスをほめてくれた二人が出ている映画で、オムライスのシーンがあるというのは不思議だなあと(笑)。

 あと、出版社代表の役をやっている岩下尚史さんっていう作家さんとか、愛子役をやった岸井ゆきのちゃんとか、作家役の大森南朋さんとか、柄本明さんとか。とても好きだった人たちが、私の知らないところで続々キャスティングされて。素直にものすごく嬉しかったです。

 なんでコンシェルジュ役に柄本さんだったんだろう。たぶん永瀬君は私が原作を書いたってこともあって友情出演をしてくれたんだろうけど、他の人は「え、マジで?」っていう感じでした。岸井ゆきのちゃんはちょうど朝ドラをやってる時で。この子本当に何歳の設定の役でも見事に演じるなって思っていて。

 あと岩下さんはバラエティで見ていて、この人すごい斜めにものを言うけど、めっちゃ知性的だよな、と憧れていたんです。完成披露舞台挨拶のときに、柄本さんと大森南朋さんはいらっしゃらなかったんだけど、他の主たるキャストの人は皆来ていて。ホントに良い方々で。鶴見辰吾さんは朗々かつ爽やかだし、美村里江さんは立ち居振る舞いがもう絶対的な才色兼備だったし、岩下さんは初対面なのに気さくに沢山面白い話をしてくださって。

2時間おきに家に帰って、注射器で薬飲ませたりとか

――原作者冥利に尽きる感じですね。

小竹:『空に住む』っていう小説が自分の中では恥ずかしいところがあって。これまでたくさん本を読んできて、そんな人が出す小説がこれかよと、自分で突っ込んじゃうところがいまだにあるんです。職業は作詞家なのに、たまに肩書きが作詞家・小説家となっているときがあり、それがもうめちゃくちゃ申し訳なくて。だから、ずっとどっかに「ごめんなさい」って気持ちがあったかもしれません。いまだにあるな(笑)。

――そこまでの内容じゃないと、自分で謙遜されているってことですね。

小竹:本当に書きたかったことって、猫の死のことだから。どんだけ辛い思いして看病して、死んだときにどんだけの喪失感だったのかを、私は口で言えないたちなので、どっかに書き残さないと人生変になっちゃうよなと思ったんです。

 原作には書いてないけど、会食とかで飲んでたりしたときも、2時間おきに家に帰って、注射器で薬飲ませたりとか。薬打ったりとかしてて。申し訳ないけど、やっぱり誰かに頑張ったねって言ってほしかった。私自身、色んなことをすぐに諦めちゃうほうなのですが、「まあ、いっか」みたいに思えない数少ないものの1つでした。

これまで色んな事をものすごく上手にかわしてきたのに

――自分と向き合う、苦行みたいな感じだったってことですよね。

小竹:大袈裟に聞こえるけど本当にそうで。これまで色んな事をものすごく上手にかわしてきたつもりだったのに、(猫の病気については)「これは上手にかわせないぞ」と心底思って。

 例えば、過去に親が拵えた莫大な金額の借金を抱えたことがあったんだけど、そういうのも頑張ってなんとなく乗り越えてこられたのに。猫のやつだけはどうにもできないんだ、どこの病院に連れて行っても結局治らないんだって。

 猫がもうどんどん酷い状態になって、我が家に来て猫を見た人みなが「え!?」って言ったあとに言葉を探すみたいなリアクションが続きました。

 顔の半分がゴリゴリの岩みたいになり、そこから血がいつもにじんでいる、片目だけ完全に白濁していて、普通の人が見たらホラーみたいな感じになって。私にとってはそれでも相変わらず可愛い存在でしたが。

 しかも、自分以外のことをこんなに愛したことないなっていうのがその猫だったんです。人も含めてですね。きっと「猫飼っている人あるある」なんだけど。こんなに素の自分見せたことないなっていう人だったから。いや、人っていうか猫でしょってツッコミはあると思うんですが、ホントに亡くなったあの猫のことは、もう完全に人間だと思っていたんですよ。

 どんどん体重が減って、抱っこするたびに、「ああ……」ってなっていくんですね。絶対死ぬんだっていう覚悟みたいなものは意外に早い段階ではしていました。だからもう、逃げらんないじゃんって腹は決まっていて。

 そういった喪失感を、一番書きたかったんだなって今も本当に思います。

 私と猫の実際の闘病生活を間近で見ていた妻夫木聡君が、映画の公開初日にわざわざ映画館に足を運んで、ちょっと泣きたくなるような感想をインスタにあげてくれていて、それを読んだときに、ああ『空に住む』を映画化してもらって、私はもっとしっかり地に足をつけてまだまだ頑張んないとなと、ホント、戒めてもらったような気持ちになりました。

小竹正人 Masato Odake
作詞家。3月10日生まれ。新潟県出身。東京・本郷高校、カリフォルニア州立大学卒業。 作詞曲「Unfair World」で第57回日本レコード大賞受賞。「花火」(三代目J SOUL Brothers from EXILE TRIBE)など、数百曲を手掛けた。小説は『空に住む』『三角のオーロラ』(共に講談社)、歌詞&エッセイ集に『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎文庫)。2017年から、自身の歌詞をモチーフに、三池崇史、行定勲、河瀬直美、石井裕也らが映像化する「CINEMA FIGHTERS project」のコンセプトプロデューサーを務める。

2020年11月5日 掲載