日本にいればよかった?

 ジャニーズ事務所は11月10日、公式サイトなどで山下智久(35)の退所を発表した。スポーツ新聞は山下が海外志向を強めていたとし、《今後はハリウッドなど、海外を中心に活動していく》と報じた(註1・2=記事末尾を参照・以下同)。

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 着々と準備を進めてきたのは事実のようだ。英語の勉強を独学で開始し、アメリカでレッスンを受講したこともあるという。

 2014年から15年にかけて、フジテレビ系列で「大人のKiss英語」と「山Pのkiss英語」のMCを担当。アンジェリーナ・ジョリー(45)をインタビューした際は、流暢な英語を披露して話題になった。

 今年6月12日からはHuluでドラマ「THE HEAD」の配信がスタート、山下は南極の科学研究基地で働く微生物学者を演じている。

 公式サイトは《日欧共同制作》の《大型国際連続ドラマ》と位置づけ、世界30の国と地域で配信が行われると宣伝している。

 もっとも、アメリカで役者として大成するためには、極めて激しい競争に勝ち抜かねばならない。「果たして成功するのだろうか?」と疑問視する向きも少なくないだろう。

 アメリカの映画・ドラマ制作に詳しいデーブ・スペクター氏は、「山下さんに追い風が吹いているのは事実だと思います」と指摘する。

「今、アメリカでは“海外ドラマ”が大ブームになっています。ヨーロッパやインド、中国、韓国といった、世界各国の制作会社が撮影したドラマに夢中なのです。

 その背景には、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Huluといった定額制の動画配信サービスが大ヒットしていることが挙げられます」

“海外ドラマ”が人気

 動画サービスが全世界の“秀作ドラマ”を紹介し、それにアメリカ人が食いついたというわけだ。この傾向は世界中に広がっているという。

「世界中に住む無数の視聴者が、動画配信サービスに加入し、あっという間にドラマを消費していきます。それこそ100本単位で制作しないと追いつかないのです。

 アメリカ人が見るドラマだけでなく、各地域用にローカライズされた作品も制作されています。ヨーロッパ向けのドラマ、中東向けのドラマ、アジア向けのドラマ、という具合です」(同・デーブ氏)

 NetflixやHuluが世界を席巻する前は、こんな状況ではなかった。そもそも日本人俳優がキャスティングされること自体が珍しかった。

 今ならネットを使って日本人俳優を検索し、YouTubeで関連動画を視聴することもできる。しかし、ネットのない時代は、情報を集めることだけで一苦労だったという。

「ロスの制作者なら、勤務先の近くにある寿司屋に行ったというエピソードもあります。日本人の板前さんに好きな男優、女優さんを教えてもらうんです。

 下手な業界関係者より、板前さんのほうが“映画を見に行くお客さん”の目線なので参考になるのです」(同)

高倉健の時代

 他にも、映画の翻訳で有名な戸田奈津子(84)に相談を持ちかけたりすることもあったという。

 そうして集めた情報を元に、日本側のキャスティング担当者と本格的に交渉を始めるのだ。

 近年は日本人俳優が出演するハリウッド映画が増えてきたこともあり、キャスティングディレクターとして活躍する奈良橋陽子(73)の知名度も上がっている。

 日本を代表する俳優だった高倉健(1931〜2014)の場合、70年だから90年代にかけて、合計3本のアメリカ映画に出演している。日本公開年順に並べた。

◆1974年「ザ・ヤクザ」[シドニー・ポラック監督(1934〜2008):ワーナー・ブラザース]

◆1989年「ブラック・レイン」[リドリー・スコット監督(82):パラマウント映画]

◆1993年「ミスター・ベースボール」[フレッド・スケピシ監督(80):ユニバーサル・ピクチャーズ]

アメリカで成功した4人

 時代背景を考えれば、ハリウッド映画の出演作が3本もあるのは、高倉健の傑出した実力を示している。

 一方の山下は、ネット配信のドラマに限れば、4本、5本と出演実績を積み重ねても不思議ではないという。それほどの“バブル”なのだ。

「とはいえ、次々に山下さんに仕事が舞い込むかと言えば、それは未知数です。そもそもNetflixやHulu側は、日本人が出演するドラマを作る場合、日本の制作会社などに声を掛けます。

 山下さんは海外に拠点を置くと報じられています。動画配信サービスの人気で吹いている追い風は、むしろ日本を拠点に置いたほうがメリットを得られるはずです」(同・デーブ氏)

 もちろん、ロサンゼルスなどに拠点を置き、地道にオーディションを受け、売れっ子になった日本人俳優もいる。

「一般のアメリカ人でも知っている日本人俳優を具体的に挙げるとすれば、男性なら渡辺謙さん(61)と真田広之さん(60)、女性なら菊地凛子さん(39)、忽那汐里さん(27)というところでしょう」(同)

サポート態勢の疑問

 渡辺謙は、アメリカ側が演技力を評価した“特別枠”で活躍している。オーディションを受けても、受けても、落とされ……といった下積み時代とは無縁だ。

 2003年に日本で公開された「ラスト サムライ」[エドワード・ズウィック監督(68):ワーナー・ブラザース]に出演すると、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。

 このノミネートを追い風に、日本では04年8月頃、渡辺謙が《既に米国のエージェントとも契約》と報じられている(註3)。

「渡辺さんが契約を結んだのはエンデヴァー・エージェンシーです。アメリカの5大エージェンシーに数えられる大手です。これだけ力のある事務所に入れたのは、渡辺さんの演技力が高く評価されていることを意味します」(同)

 一方、真田、菊地、忽那の3人は、現地で地道にオーディションを受け、自分たちの演技力だけを武器に評価を勝ち取ってきた。

 山下はテレビドラマも映画も経験豊富だが、日本アカデミー賞を代表とする賞レースとは無縁だ。

 渡辺のような方法でハリウッド進出は難しいそうだ。日刊スポーツは《親交の深い米俳優ウィル・スミス(52)の関係者らからサポートなどを受けていく》と報じた(註4)。

「渡辺さんは日本では大手のケイダッシュに所属しています。日米共に大手という相乗効果が生まれているのは、過去の出演実績を見れば明らかです。

 エンデヴァー・エージェンシーと比べると、“ウィル・スミスの関係者”によるサポートというのは、あまり実績がありません。ましてや、渡辺さんのような日本での仕事となると、かなり厳しいと言っていいのではないでしょうか」(同)

メリットに乏しいアメリカ生活

 アメリカでオーディションを受け続ける生活は、日本で活躍した実績があるほど、精神力を試されるという。

「仮に山下さんがロサンゼルスに拠点を置いたとしましょう。お金さえあれば、楽しいセレブライフが保証されます。

 しかし、アメリカのショービズ業界の競争が激しいことは言うまでもありません。オーディションに落ち、役に恵まれず、辛酸をなめるような生活が続くと、かなりのストレスです」(同)

 アメリカで活動する場合、山下は日系人俳優ともキャスティングを巡って争わなければならないという。

「アメリカの映画やドラマで日本人の役者が必要な場合、例えば脚本に『東京からやって来た留学生』と細かく設定されているのは、やはり稀でしょう。

 多くは『アパートに住むアジア系の独身男』というアバウトな設定が多いはずです。そうなると、プロデューサーや監督は、生粋の日本人でなくても、日系人俳優でもOKということになります。

 おまけに、日系人俳優の英語はネイティブですから、スタッフの細かな指示も完璧にニュアンスを理解してくれます。どれほど流暢であっても、山下さんの英語はネイティブレベルではありません。彼らと競って役を勝ち取るのは大変だと思います」(同)

現実味を増す“口実説”

 もちろん山下にも有利な点はある。今、アメリカの映画・ドラマ制作業界では、「外国人の役は、実際の国籍を持つ役者に演じてもらおう」という考えが一般的になりつつあるという。

 更に彼は、中国や韓国、台湾にも多くのファンがいる。アメリカで制作し、アメリカで放送されるドラマシリーズであっても、山下をキャスティングすればアジア市場でのヒットが期待できる。

 とはいえ、山下を待つのは決して平坦な道ではない。むしろ茨の道となる可能性も否定できない。

「山下さんがアメリカで努力を重ねるのなら、心から応援したいと思います。とはいえ、実のところアメリカを拠点にするメリットが豊富なわけではないのです。

 結局、今回の“海外移籍”は、一種の口実である可能性も否定できません。ジャニーズ事務所を退所するための方便であって、ワンクッションを置くことに成功したら、再び日本に戻って新しい事務所と契約を結ぶ。こんなシナリオのほうが、現実味はある気がします」(同)

註1:日刊スポーツ「山Pジャニーズ退所していた」(11月11日)より。

註2:引用に際しては全角英数を半角に改めるなど、デイリー新潮の表記法に合わせた。

註3:日刊スポーツ「渡辺謙、バットマンの生みの親!?−−ハリウッド進出第2弾『…ビギンズ』英国ロケ」(04年8月3日)より。

註4:日刊スポーツ「山下退所 10月27日海外作品からオファーで決断」(11月11日)より。

週刊新潮WEB取材班

2020年11月23日 掲載