時節柄か、女性アナウンサーの“卒業”が相次いでいるが、中でも2月にTBSを退社した伊東楓(27)の新たな仕事は異彩を放っている。

「社長に直接“絵本作家になります”と伝えました」

 と語るのはご本人だ。

「すると社長は“大きなことを成し遂げようとする君を止めることはできないね”って受け入れてくださり、会長も“寂しいけど大いに羽ばたいて”と笑顔で許してくれたんです」

 局アナから絵本作家とはこれいかに。今月19日に発売の処女作『唯一の月』(光文社)は、彼女が描いた数十点の絵画に詩やエッセイを添えたものだが、

「私は“絵詩集”と呼んでいるんですよ」

 たしかに一般の絵本とは趣が異なり、絵のタッチは幻想的かつ写実的でもある。

 聞けば彼女、絵は独学とのこと。幼少期から絵画に親しみ、立教大学在学中には民間資格である似顔絵師の試験に合格。就職後はいっとき絵から遠のいたが、

「入局3年目の秋に転機が訪れました。視聴者が悩み事を相談するバラエティ番組のアシスタントになったんです。私の役割は相談者の似顔絵などをホワイトボードに描き出すことで、だったら絵はちゃんと描かないと、と思い立ち、改めて勉強を始めたんです」

 自宅でデッサンなどに取り組み始めたところ、

「徐々に“もっとリアルに描きたい”と欲が出てきて。楽しさもあって、専門店で150色もあるプロ用の色鉛筆を買っちゃったほど」

 仕事とは関係なく創作を続けるうち、自身の内面へと目が向くようになった。

「この頃から、自分の無力さを痛感し始めたんです。アナウンサーは職業柄、公平中立が大切でキャラや個性を出し過ぎるのはあまり良くない。だからたとえば、ロケ先で心に響く美しい風景に出会った時は、個人的に好きか嫌いかよりも“きれいな眺め”とか“素晴らしい眺望”という表現の方が大切なんです。自分の思いを素直に口に出せない戸惑いもあり、いつしか“私ってなに?”と自問するばかりになってしまった」

 同時に自分と周囲の意識の乖離にも苦しんだとか。

「周りには、私が充実した人生を送っているように見えていたかもしれません。学生時代からの友人も、著名人と一緒にテレビに映る私を見て“凄い!”“頑張ってる”と言ってくれました。でもそれは表の姿で、裏では自分のやりたいことは何だろうと悩んでいました。それでも同僚はもちろん、私の仕事ぶりを喜んでくれている両親にも相談はできず、徐々に心が荒んでいくのを感じていました」

 でも、と言葉を継いで、

「絵や文章の世界では、存分に私らしさを出すことができました。今回の絵詩集では、思っていたこと、感じたことを率直に表現できました。自分で絵本作家と名乗ったものの、絵本ばかりを作るつもりはないし、かといって単に作家というのも……。いまピンときているのは“表現者”かな」

 女子アナにありがちなフリーへの転身やプロスポーツ選手との結婚が、「まったく意識になかった」と言うのもむべなるかな。夏には創作活動のためにドイツへ移住する予定で、

「首都ベルリンで、カフェでアルバイトをしつつ暮らそうかなと。ヨーロッパは文化と実生活の距離が近く、自然に描きたいものや書きたいことが見えてくるはず。自分でも楽しみですね」

 転職、そして渡欧。描いた絵はあまりに大胆――。

「週刊新潮」2021年3月18日号 掲載