親の顔が見たい!?

 警視庁は3月17日、元人気YouTuberの「ワタナベマホト」を児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで逮捕した。

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 昨年11月、高校1年生の少女(当時15歳)に、18歳未満であると知りながら、わいせつな画像3枚をスマートフォンで撮らせて送信させたという容疑だった。

 今年1月に、別のYouTuberが事件の“告発”を行っていた。余罪がある可能性を報じたメディアもある。また、2019年にも女性に暴行を加えて逮捕されていたことが明らかになっている。

 こうしたことから事件に対する関心は高い。だが「ワタナベマホト」の本名が明らかになったことは、事件以上に大きな注目を集めている。

 多くのメディアが、東京都品川区に住む渡辺摩萌峡容疑者(28)と伝えた。「摩萌峡」と書いて「まほと」と読むことが明らかになったのだ。

 このニュースに反応したのが、ネット掲示板「2ちゃんねる」の創設者で実業家のひろゆき[=西村博之]氏(44)だった。

 Twitterに「ワタナベマホトめぐり『逮捕より本名にびっくり』 ニュース記事に驚き広がる」(J-CASTニュース)のリンクを貼り、以下のような持論を披露したのだ。

《親の知能は子供に遺伝します。》

「悪魔ちゃん」騒動

 ひろゆき氏の投稿したツイートの引用を続けよう。

《他人が自分の子供を呼ぶために、名前をつけるのですが、一般的に読めない名前をつける親は頭が良くない可能性が高いです》

《よって、読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い可能性が高いです。と言う話をしてたら、また実例が増えました。》(註:改行を省略)

 このツイートがきっかけとなり、“キラキラネーム”に再び脚光が集まっているようだ。

 意味をご存知の方も多いだろう。辞書の『大辞林』(三省堂)には「きらきらネーム」の項目がある。ご紹介しよう。

《通常の名付けの型にはまらない名前を俗に言う語。漢字の特異な当て字によるものなど》

 一般には1990年代の後半から「漢字の当て字がひどく、読めない名前」の存在が注目を集めるようになり、2000年代に入って急激に増えたと言われているようだ。

 1993年、当時30歳の父親が、東京都・昭島市役所に男児の名前として「悪魔」を記載した出生届を提出したことをご記憶の方も多いだろう。

笑々寿、楽楽、獅子王……

 最終的に父親は別の名前で出生届を出し直したが、それまでの間、連日のようにワイドショーや新聞の社会面で大きく取り上げられる騒動となった。

 この「悪魔ちゃん命名騒動」は、キラキラネームの特徴である「読めないほど特異な当て字」ではない。「悪魔」は誰でも「あくま」と読める。一方の「摩萌峡」を「まほと」と読める人はまずいないだろう。

 しかし、伝統的な名前を参考にせず、ことさら珍奇な命名を行う親が存在することを世に知らしめた、最初の出来事だと言える。

 法曹家にとっても「親の命名権」を考える上で重要な資料となっているそうだ。こうしたことから「悪魔ちゃん命名騒動」はキラキラネームの“原点”と言われることもある。

 週刊新潮は2015年1月22日号に、ノンフィクション・ライターの白石新氏が執筆した特別読物「子供に十字架を背負わせる『キラキラネーム』命名辞典」を掲載した。

 この記事で紹介されている“特異な名前”には、以下のようなものがある。

 笑々寿(えーす)、来楽(らら)、一二三(わるつ)、獅子王(れお)、緑輝(さふぁいあ)、真九州(まっくす)、明日(ともろう)……こんな具合だ。

カタカナでも変

 普通に読むと、人名としては問題のある単語を使うケースもある。「遊女」は『大辞林』の場合、《古来、宴席などで歌舞をし、また、寝所に侍ることを職業とした女。あそびめ。うかれめ。遊君》と明記されている。

 親がこの定義を知っているのかは不明だが、「遊女」と書いて「ゆめ」と読むのだという。

「心中」は《相愛の男女が合意の上で一緒に自殺すること》とある。これを「ここな」と読ませるのだそうだ。

 週刊新潮の記事では《10万人以上の子供の名付け相談をおこなってきた》という命名研究家の牧野恭仁雄氏が登場し、キラキラネームの解説を行っている。

 改めて牧野氏に「摩萌峡」という名前をどう受け止めるか、取材を依頼した。

「そもそも一種の芸名として使っていた『ワタナベマホト』というカタカナの名前も普通ではありません。常識的な人なら『ホト』という音を人名に使わないからです。試しに広辞苑で『ほと』を引くと、『陰』の漢字が記され、《女の陰部。女陰》と記されています。『まほと』という音からして人名にふさわしくはないでしょう」

親の因果が子に報いる

 皮肉なことに、キラキラネームを名付ける親は「名前の意味より音を重視する」傾向があるという。

 明治安田生命の名前ランキングによると、例えば1960〜70年代に生まれた男児には「誠」の漢字が多く使われており、何度も1位に輝いている。これは「誠実な人間になってほしい」という願いの反映だろう。

 これに対して、週刊新潮の記事には「吐夢」と書いて「どりむ」と読ませるキラキラネームが紹介されている。この場合、親は「ドリーム」という音のことしか考えていないのだ。

 カタカナのドリームを何とか漢字にしようと悪戦苦闘し、「吐夢」という奇天烈な漢字をひねり出す。だから「吐く」という人名にはふさわしくない漢字が使われていても気にしないのだ。

 我が子に「摩萌峡」と名付けた親も、「まほと」という音を重視した可能性があるという。しかし、音としても問題があるのは前に見た通りだ。

没個性な親

「『摩萌峡』という漢字でも、『まほと』という音でも、そんな名前の人間は、普通なら警戒されます。『この人の親は普通ではない』と考えるからです。そんなことに思いが至らない親がいて、その息子が児童買春・ポルノ禁止法違反で逮捕されてしまった。『この親にしてこの子あり』や『親の因果が子に報いる』という諺を思い出す人も多いのではないでしょうか」(同・牧野氏)

 これまで牧野氏は、子供にキラキラネームを付けた多くの親に会ってきた。その経験から1つの共通点があることが分かったという。

「よく言われるような、富裕層と貧困層というような、社会階級的な差はありません。一流企業に勤めている会社員でも、子供にキラキラネームを付ける人はいます。私が実感した共通点は、真面目で没個性的、付和雷同型の人が多いというものです」

 キラキラネームを名付ける親は“ヤンキー文化”と密接な関係があると思われている。彼らは個性的と思われがちだが……。

「いえ、ヤンキーも根は同じです。群れて似たようなファッションや行動様式を好みます」(同・牧野氏)

個性は不幸!?

 そんな彼らは、親となった瞬間、「個性」という言葉をとにかく重視するという。自分には個性がなかったから、子供は個性的であってほしい。そのためには名前から個性的なものにしようというわけだ。

「しかし、キラキラネームは個性的ではありません。単に珍奇なだけです。おまけに本当の意味で個性的な人は、凡人と衝突することが多く、生きづらさを感じるケースが多いでしょう。古今東西の天才の人生を振り返れば、それは明らかです」(同)

 むしろ親としては「ちゃんと空気を読んで、ワガママを言わず、協調性を大切に、みんなと仲良くしてほしい」と願うほうが普通とも言える。

「個性を非常に重視する親は、やはり心のどこかに根深いコンプレックスを抱えていると考えられます。一方、誰にでも読めて、昔から普通にある名前を付ける親は、過度のコンプレックスがない人だと考えられます。普通の名前を持つ子供が社会から受け入れられやすいのは、そういう暗黙の了解があるからです」(同)

 2019年9月、NHK総合の「クローズアップ現代」(火〜木・22:00)は「“改名”100人〜私が名前を変えたワケ〜」を放送した。

違和感を覚えない人々

 ある男性は親に「王子様」という名前を付けられたのだが、改名の手続きを取って「肇」としたことを明らかにした。キラキラネームからごく常識的な名前に変わったという事実は、極めて示唆的だろう。

 今のところ世論としてはキラキラネームを問題視する意見が根強いが、牧野氏は今回の事件で「世代の違い」という危機感を覚えるという。

「『ワタナベマホト』という芸名に、ある世代より上の人々は違和感を覚えるでしょう。ところが若い世代になると、少なからぬ人がファンになったわけです。これはキラキラネームをおかしいと思わない、普通の名前だと考える人が増えているということではないでしょうか」(同)

デイリー新潮取材班

2021年3月20日 掲載