片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)×作詞家・小竹正人 往復書簡36

 片寄が「Clubhouse」について触れた返事で、小竹はあるイベントに出向いた際のことを語り始めた。何の関係が? という展開だったが……。

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拝啓 片寄涼太様

 うわ、なんともタイムリー。

 君からの手紙を受け取るほんの数時間前にバラエティー番組(かなり前に録画していた「マツコ&有吉 かりそめ天国」)を見ていて、「Clubhouse」なるアプリが流行っていると知ったところだった。

 それを見ていなかったら、君にClubhouseと言われても全くピンときていなかっただろう。

 それにしてもどうしよう、打ち合わせや会議をそのアプリを使ってやるときが来てしまったら。LINE やYouTubeは気がつけば仕事での必須ツールになっているし……なんてビクビクしていたが、すでにClubhouseは下火になっているんだね。

「アプリの流行り廃りも矢の如し」で、杞憂に終わってよかったようなますます怖いような。ホント、どんどんネット社会やソーシャルメディアで迷子になっていく私。

 さて、以前の往復書簡(Vol.30)の画像のキャプションで、青山のスパイラルで催された向田邦子さんの没後40年特別イベント【いま、風が吹いている】に行ったことを書いた。

 向田さんは、私が幼少期の頃に見ていた数々のテレビドラマのシナリオライターであり、とても趣のある文章をお書きになったエッセイストであり、更には直木賞を受賞された小説家でもあった。唯一無二の感性を持つ言葉の達人だったのに、1981年に飛行機の墜落事故で帰らぬ人となった。

 生前から今日に至るまで、全く色褪せない向田さんの文章を折にふれ読んでは感銘を受けていた私。このイベントに行くことをそれはもう楽しみにしていた。

 本来なら様々な企画の上映・上演もあるはずだったのだが、コロナの影響でそれらは配信のみに。けれど、会場には向田さんの遺した生原稿、愛用品、写真、生涯年表などが展示されていたので、「それを見るだけでも十分行く価値がある」と、朝から意気揚々と出かけた。

 いつもの3人組(小泉今日子氏、YOU氏、私)でね。

 会場の真ん中に「風の塔」という機織り機のような塔が設置されていて、向田作品から抜粋された言葉が書かれた紙が、塔のてっぺんからはらはらと落ちてくるという粋な仕組みになっていた。

 この風の塔で流れる音声を担当していたのが小泉さんだったので、彼女がYOUと私を案内してくれるような感じで展示物を堪能させてもらった。

 ふと気づくと、今日子がどなたかと話している。青山スパイラルの館長と、今回のイベントの会場構成(アートディレクション)を手掛けたKIGI(植原亮輔氏と渡邉良重氏によるクリエイティブユニット)のお2人だった。

 紹介にあずかり、私はこのお3方に挨拶をさせていただいた。少し(いや、かなり)よそ行きの顔で、館長にはこのイベントがいかに向田ファンにとって興味深いものかを伝え、KIGIのお2人には今回の会場構成がどれだけ洗練されているかを語った。

 せっかくだから名刺交換を、ということになり、とても久しぶり(コロナで初対面の方に会う機会がほとんどなかったので)に名刺を出そうとしたとき、手持ちの名刺が1枚しかないことに気づいた私。

 その1枚を館長に貰っていただき、「あっ、そういえば万が一のときのためにスマホケースの中に予備の名刺を持っていたはずだ」と思い出し、安堵の想いでスマホケースから名刺を取り出し、KIGIのお2人に笑顔で「オダケと申し…」と言いながら名刺を渡した瞬間、背筋が凍った。

 あろうことか私は自分の名刺ではなく、EXILE HIRO氏の名刺を手渡していたのである。

 随分と前、事務所でHIROさんと私が雑談をしていたときに、マネージャーが刷り上がったばかりの新しいHIROさんの名刺を持ってきたことがあった。

 私が把握できないくらいクリエイティブな業務をたくさん担い、数えきれない人々(エンタメ業界以外の人も含め)と打ち合わせをしているHIROさんが名刺を持っていても何の不思議もないのであるが、そのときの私は、「えっ、HIROさんの名刺?」と妙に興奮してしまい、「その名刺が欲しい」と熱望してまんまといただいたのである(しかも何枚も)。

 以前も書いた通り、作詞家・小竹正人をプロデュースしてくれているのはHIROさんなので、この名刺をお守り的に持ち歩いていたら仕事運がアップしそうだと思ったのだ。で、財布の中やスマホケースの中にHIROさんの名刺を忍ばせた。

 この私の願掛け行為は、私がそれを自慢気に吹聴したこともあって、それからすぐに所属アーティストの間で「HIROさんの名刺を財布の中に入れておくと仕事運が上がるらしい」とまことしやかにささやかれ都市伝説として広がった。

 あっ、話を戻そう。

 私から名刺を受け取ったKIGIの渡邉さんの顔に「?」マークが浮かび、私は敬語を使うのも忘れ「間違えた!」とその場にそぐわぬ大声で叫び、即座に(まるで強奪するかのように)名刺を引ったくって返してもらった。

 そして、慌てて「作詞家 小竹正人」と印刷された本来の自分の名刺をスマホケースから取り出し、平謝りでそれを渡した。

 すぐに事情を察した今日子が微笑みながらも「あ、他の方の名刺を間違えて出しちゃったみたいですね」と私の代弁者(保護者?)がごとく渡邉さんに説明してくれて、YOUが「もう、HIROさんの名刺出さないでよ〜」と例の調子で面白おかしく言ってくれたのでみんなも笑い、変な空気が一掃されその場が和やかになった。

 もうさ、こんなとんちんかんで木偶の坊な私が、新しく流行るアプリなんて使いこなせるわけがないんだよ。

小竹正人

敬具

片寄涼太 Ryota Katayose
GENERATIONS from EXILE TRIBEのボーカル。1994年8月29日生まれ。大阪府八尾市出身。祖父と父が音楽教師で、若いころからピアノに親しむ。2012年にデビュー。14年にドラマ「GTO」で俳優デビュー。19年に映画「午前0時、キスしに来てよ」で橋本環奈とW主演。GENERATIONS、25枚目のシングル「雨のち晴れ」が発売中。

小竹正人 Masato Odake
作詞家。3月10日生まれ。新潟県出身。東京・本郷高校、カリフォルニア州立大学卒業。 作詞曲「Unfair World」で第57回日本レコード大賞受賞。「花火」(三代目J SOUL Brothers from EXILE TRIBE)など、数百曲を手掛けた。小説は『空に住む』『三角のオーロラ』(共に講談社)、歌詞&エッセイ集に『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎文庫)。2017年から、自身の歌詞をモチーフに、三池崇史、行定勲、河瀬直美、石井裕也らが映像化する「CINEMA FIGHTERS project」のコンセプトプロデューサーを務める。

2021年3月28日 掲載