「ヤバイよヤバイよ」では済まされない状況の出川哲朗さん。島田紳助さんが男女の関係を迫った現場に同席し、止めるどころか勧めてきたとモデルのマリエさんが告発。当時まだ18歳だった彼女の傷は深く、出川さんをテレビで見るのも嫌と怒りをあらわにした。

 騒動を受けて、出川さんの所属事務所は「打ち上げで一度会ったものの、当該の事実はない」と発表。しかし出演中の経産省の動画が削除されるなど、疑惑一掃とは言いがたい状態だ。録音や録画はなく、当事者どうしの「言った・言わない」の記憶によらざるを得ない点も大きい。セクハラを訴える民事裁判では、日記などのメモも証拠になりうるが、マリエさんはそうした存在を明らかにはしていない。現状、裁判などを起こすつもりもないと語っている。出川さんにしてみれば、いったんひと区切りにするしかないのだろう。

 児童虐待や家庭内殺人が多いのは、他人を家に入れない家だそうだ。家庭の恥部を知られることに拒否感が強い家ということだろう。芸能界を見ると、「○○ファミリー」と言われるタレントたちも、ある種特殊で閉鎖的なルールの中にいるように見える。紳助さんの「ヘキサゴンファミリー」、「小室ファミリー」、「アッコファミリー」……それは家族のように仲良し、という正のイメージだけではない。いずれもファミリーの主が絶対的権力を持ち、他のメンバーを従わせる高圧的な印象と背中合わせだ。今回のケースとは違うが、交際相手をデビューさせる小室さんの女癖の悪さや、ゲンコツを振りかざして共演者に迫るアッコさんのパワハラ的な振る舞い。近年ようやく取り沙汰されるようになったが、「その家庭にはその家庭のルールがある」「よその家庭に口出しするのは失礼」という遠慮も業界内にはあったのだろう。特に紳助さんの所属していた吉本興業や、アッコさんの所属するホリプロは大手である。「名門」に盾つくのには躊躇するはずだ。マリエさんも所属先から、「仕事がなくなるがそれでもいいか」と確認されたという。ファミリーの掟に反する者は消されても仕方がない。そんな異様な雰囲気が常態化していたのだろう。マリエさんも「殺されるかも」と繰り返していたが、「体一つで2億稼いだ」と豪語した岡本夏生さんでさえ、「消されるかも」とおびえていた。

 だから出川さんの名前が出て、少し不思議に感じたのだ。紳助さんファミリーだったっけ?女性の尊厳よりファミリーという立場だったっけ?と。事務所も違うし、共演が多かった記憶もない。むしろ「アッコにおまかせ!」の印象からアッコさんファミリーか、事務所同期の内村光良さんファミリー、今なら「イッテQ!」ファミリーというイメージが強い。番組内では「出川ガールズ」なる後輩女性たちとのやりとりも好評だ。

 裏を返せば、どこのファミリーに行ってもなじめる人当たりの良さとリアクションスキルがあったということだろう。だから権力志向の大物にも、お茶の間にも愛される。強権的な父親ではなく、永遠の末っ子ポジション。そして今回は、その長所が一転して災いしたと言えるのではないか。

リーマンショックとSNS普及が壊したファミリー文化 出川さんはみんなの末っ子から「巣立つ」のか!?

 事件が起きたとされる2005年前後は、「抱かれる時代の最後」だったと若槻千夏さんが語っている。若槻さん自身も「あの大物と何回寝たのか」と、あるグラビアタレントに聞かれたそうだ。ただ、そういった行動をした女性たちはみな表舞台から去ったという。

 後押ししたのは2008年のリーマンショックとSNS文化の普及ではないか。制作費が激減し、タレント含めて人件費は削減。ヌルッと入り込める出演枠は消え、男女の関係を持ちかける制作会社社長らもクビ切りの憂き目にあっただろう。社会不安も高まり、政府や一部の富裕層など、金と権力を持つ「ファミリーの主」的存在への反発も強まった。なんの後ろ盾もなくても、自分の声を発信したい人たちにとって、ブログやツイッター、各種SNSの普及は武器になった。

 そうした中で、「嫌いな男」から「好きなタレント」までブレイクを遂げた出川さん。特定の権力におもねることなく、それこそ体一つでリアクション芸を極める姿は多くの視聴者の支持を得た。年下がいても一番イジられ、ポンコツだけど愛される。そんなキャラと、今回の報道とのギャップは大きい。出川ガールズも困惑しているに違いない。

 引退している紳助さんではなく、現役の出川さんに批判が集中しているのも理不尽といえば理不尽だ。モヤモヤしているのはお茶の間以上に出川さん自身かもしれない。ただ、今求められるのは万年末っ子の「リアクション」より、独立した一人の男性としての真摯な「アクション」なのだろう。大人としても芸人としても次なるステージに向けて、男・出川哲朗の巣立ちを見守りたい。

冨士海ネコ

2021年4月14日 掲載