ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第10回は、地井武男(1942〜2012年)だ。

 ***

「長いこと刑事役やってると、目つきが鋭くなっちゃってさ。でも、オレ、怖くないから。よろしく」

 残念ながら私は「俳優・地井武男」に正式にインタビューする機会がなかったのだが、1年間ほど朝の情報番組に一緒に出演していたことがある。その現場で初対面の挨拶がこの言葉であった。

 当時は、まだ「ちい散歩」(テレビ朝日・2006〜2012年)も始まっておらず、女子高生たちから「チイチイ」と親しまれるようになるのは少し後のことなのだが、事件や芸能スキャンダルなどさまざまなネタが出てくる生放送番組で、大人のコメントをしっかり発し、横にいるひよっこコメンテイターの私はずいぶん助けられた。そして、私が時代劇の原稿を書いていると知ると、雑談の中で撮影現場の話をたくさんしてくれた。

 小学生時代から学芸会で主役をしていたという地井武男は、1963年に俳優座養成所へ入所。原田芳雄、小野武彦、林隆三、太地喜和子、高橋長英、前田吟、栗原小巻、赤座美代子、村井国夫、秋野太作らそうそうたる顔ぶれが揃う「花の15期生」の一人だった。

 自由劇場(後のオンシアター自由劇場)の旗揚げを経て、68年に岡本喜八監督の時代劇「斬る」(東宝)で映画デビューする。「斬る」は山本周五郎の小説「砦山の十七日」が原案で、武士を捨てた男(仲代達矢)と農民ながら武士になりたい男(高橋悦史)が、藩の上層部と対立する若侍たちの争いに巻き込まれていくという話。文字通り、斬る、ぶつかる、争う、その合間にどんちゃん騒ぎがあったり、身売りした娘たちを救い出したり、笑えるセリフもたっぷりで、岡本監督らしいエネルギッシュな展開が続く。私もこの作品のファンだが、若侍の一人としてこの作品に出演し、岡本監督と出会ったことは、俳優・地井武男にとって大きな収穫だった。

「風はビュービュー吹かすし、砂もすごいし、大変なんだけど、先輩たちが頑張ってるだろ。ああいう現場に行ったら、役者は『監督、なんでもやります!』という気になるもんだよ」

 70年、映画「沖縄」に初主演。以後、多くの映画・ドラマに出演する。国民的ドラマ「北の国から」(フジテレビ・1981〜2002年)の熱演も語り草だ。刑事役は「太陽にほえろ!PART2」(日本テレビ・1986〜1987年)、「刑事貴族」(同・1990〜1992年)はじめ2時間ドラマなどでもたくさん演じている。

 時代劇でも事件捜査をする役が多い。

 代表的なシリーズが75年にスタートした「同心部屋御用帳 江戸の旋風」(フジテレビ)。

 原作は推理作家・島田一男。加山雄三のテレビ時代劇初主演作で、特長は南町奉行所の6人の個性的な同心のチーム捜査というところだ。メンバーは、頭脳明晰にして剣の腕もたつ千秋城之介(加山)、筆頭同心の早見茂太夫(千秋実)、行動派の高瀬儀右衛門(近藤洋介)、女好きだが憎めない由良三九郎(田中邦衛)、そこで地井は理論派のエリート三保木大学役。三保木は、ちょっとキザな印象だった。エレキギターがビヨンビヨン鳴り響くオープニング曲やスピード感いっぱいのナレーションなど、演出も現代的。当時は「太陽にほえろ!」はじめ刑事ドラマも集団捜査が人気で、「同心部屋御用帳」のメイン監督の高瀬昌弘は「太陽〜」でも活躍している。「Gメン’75」(TBS)もまさに同時期で、同心6人が横並びで登場するシーンにも時代を感じる。

「忠臣蔵」の堀部安兵衛のような熱血漢や敵役のゲスト出演も多かったが、ユニークだったのは、82年の「剣客商売 辻斬り」(フジテレビ)の三浦金太郎役。老剣豪・秋山小兵衛(中村又五郎)と息子大治郎(加藤剛)が、謎の辻斬り事件を追うという物語に登場する三浦は、顔にしっかり化粧を施し、いつも鏡で自分を見てうっとりする通称“まゆ墨の金ちゃん”というナルシスト剣客なのである。彼は悪事とは関係なく、剣客としての血が騒いで、秋山父子に挑む。いかつい顔を白塗りにした上、口紅からブルーのアイシャドーまでバッチリして、ゆらりと動く不思議ムードの地井武男。一度見たら忘れられないが、金ちゃんは、この風貌で剣客らしい不敵な強さも漂わせるという難役でもある。俳優としては挑戦し甲斐のある役だったのかもしれない。

 もっとも、96年のコメディタッチの時代劇「快刀!夢一座七変化」(テレビ朝日)では、旅一座の悪役ながら、いろいろな女装して事件現場に現れるという役を楽しげに演じていたこともあった。ご本人は、「この俺が女装だよ? 参ったよ」と笑っていたが、白塗り役も結構楽しんでいた気もする。

 キャリアを重ねると、若い主役を見守る、人情味のある役が増えていく。一番見守られたのは、中井貴一かもしれない。

 82年に放送された藤沢周平・原作の「立花登 青春手控え」(NHK)。二十歳の立花登(中井貴一)は、世話になっている町医者の叔父一家の家計を助けるため、小伝馬町の牢医となり、事件と関わることになる。世間の裏表をよく知る岡っ引きの藤吉(地井)は「(囚人に)深入りしちゃいけませんぜ」と心配しながら、彼を助けるのだ。これがテレビドラマ初出演の中井貴一はさすがに演技がカチカチ。それがそのまま藤吉ら年長者との関係と重なって見えるところも味だった。

 ハスキーなあの声で、私にもニコニコとアドバイスをくれた。

「時代劇が好きなら、大映のシリアスな路線を見るといい。市川雷蔵は『眠狂四郎』が有名だけど、『忍びの者』はとてもいいし、現代劇だけど『ある殺し屋』も見た方がいいよ」

 もともと憧れていたのは日活の石原裕次郎や赤木圭一郎だったという。演技を続ける上で、夢とロマンに輝く日活スターよりも雷蔵のように独特の翳のある俳優に惹かれたのか。いろんなことを聞きそこなってしまった。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月16日 掲載