テレビ評論家の吉田潮氏は、「私がNetflixに加入したのは2019年の8月。なぜなら山田孝之主演『全裸監督』を観たかったから」と話す。実際に、「役者陣はもちろん、映像も展開もクオリティのえらい高いドラマで、ある種『昭和から平成を描いた超大型時代劇』だと思った」という。その続編、シーズン2が今夏配信スタートとなり、「当然のことながら一気見した」際に感じた、このドラマが高く評価されるべき点について綴る。

 ひとつめ。なんつっても役者陣。地上波ドラマではまず観ることができないであろう熱量。いや、みんな熱量も技量も魂もあるのに、テレビではそれを出す場がないのよね。表面的というか、うわっつらというか、綺麗事しか描かないから。「おしゃれでポップで胸キュンな脳内お花畑」あるいは「顔芸と下剋上と覇権争い」、もしくは「医師と刑事と弁護士と検事、国家公務員や国家資格をもつ人々のみが奏でる理想郷」ばかり。人間の業、金と性欲と人権侵害、大手芸能事務所への揶揄に新興宗教、そして裏切りと愛を描き切った「全裸監督」に出演した役者陣は、エンターテインメントの向こう側をきっちり見せてくれたと思う。

 まず、村西とおるを演じた山田孝之は、もう一体化というか、異様なエネルギーをもつ生き物の凋落を全身全霊で表現。これまで、山田がどんな役を演じても圧倒的な存在感に好感しか覚えなかったのだが、今作は違った。本当に憎たらしかったし嫌悪感しかない。劇中で野垂れ死んでほしいと切に願うほど。それが最重要課題だったと思うし、山田は見事クリアした感じがある。

伊藤沙莉に救われた

 というのも「全裸監督」を観て面白いと思っても、直接言いづらい空気があった。たとえドラマであっても、女性の人権侵害と性的搾取を不愉快に思う人が大勢いるからだ。特に、シーズン1は山田が業界で上り詰めるまでのサクセスストーリーであり、破天荒な半生を魅力的かつ精力的に描いていたため、大手を振って称賛しづらい部分もあった。私もこれは秀作だと思う反面、この日本独特の性的搾取の文化は明らかに野蛮な「負の遺産」だと思っている。

 ところが、シーズン2は矛先が変わった。山田は衛星放送事業の虜になり、金策に躍起になってどんどん暴走していく。スタッフや女優への未払い、ギャラの使い込み、さらには女優たちにストリップまでやらせてギャラを全搾取。ともに歩いてきた仲間やスタッフを罵倒し、裏切り、落ちるところまで落ちる。大金を金庫番と付き人に持ち逃げされる不幸も襲うが、山田に同情する場面はほぼなかった。それでいいのだ。それがいいのだ。天才だがひとでなし。破天荒だがヒーローでも善人でもない。むしろ、まごうことなきクズとして描いたのは正解だったと思う。

 そして、黒木香を演じた森田望智も圧巻だった。2シーズン通して重要な存在で、彼女の半生に最も思いを寄せてしまう。実際の黒木香が抱いた感情や苦悩ははかりしれないが、少なくとも能動的に性を語り、女性の欲望を肯定した功績は大きい。時代の寵児ともてはやされた男に、見いだされ愛された才女。愛と嫉妬と絶望、そして呪縛からの解放までを見事に森田が体現した。

 また、狂気の男たちと併走しながらも女優たちを守ってきたのが、ヘアメイクの順子を演じた伊藤沙莉だ。シーズン2では酒量が増えて不安定になった黒木を支えるだけでなく、監督としての才能も発揮する役である。正直、沙莉がいなければ、天才にむらがる“男が男に惚れるワールド”に陥るところだ。コミカルかつホスピタリティのある存在に、観る側も救われた気がする。

満島真之介とタマテツ

 さて、忘れちゃいけない男がもうふたり。シーズン1で敵対するヤクザに寝返り、薬物中毒にまで堕ちたチンピラのトシ。演じたのは満島真之介。シーズン2では彼の男気と純朴、そして不遇と不運には泣かずにいられなかった。お調子者でオラオラすればするほど、弱さや優しさが漏れ出てしまう感じを、満島が体を張って魅せた。村西とおるに最も魅了されて、最も翻弄された不運な男ともいえる。

 そして、ギラギラもオラオラもしていない、唯一まっとうな親近感を醸し出していたのが、玉山鉄二が演じた川田。川田は決して天才肌ではないが、ビデオの表現にいちばんこだわりをもっている職人気質の男だ。思うに、日本の性風俗産業を支えてきたのは、破天荒で稀有な天才だけではなく、川田のような真面目なオタクなのだろう。

「ブレイキング・バッド」を彷彿

 ふたつめ。遠慮も配慮も容赦もなく、主人公をとことん追い込んでいくスタイルは、アメリカのドラマを観ているようだった。いや、アメリカのドラマがすべてそうとは限らないが、エミー賞の各部門を獲りまくった「ブレイキング・バッド」を思い出した。主人公の化学教師が病に冒されながらも際限なく悪(ドラッグ製造、そして殺人)に手を染め、歯止めが利かなくなっていく問題作だが、「全裸監督2」も同じニオイがした。

 配慮と倫理観が幅を利かせる昨今のドラマは、みんな勧善懲悪でエッジも面白さも削られている。ついでにお金もないから、映像に迫力もスリルもスピードもテンポもない。その点、全裸監督シリーズは正しく激しく潔く金を使っているから、見ごたえ十分。映像にあーだこーだとこうるさい人も満足できるはず。「宇宙かよ!」とツッコミながら。

 三つめ。映像の端々には90年代の日本を振り返るアーカイブ要素がある。社会党の土井たか子が選挙演説をしているところへ山田が乗り込んでいくシーンでは、「社会党の最盛期だったなぁ……おたかさんがいてくれたらなぁ……」としみじみ。この後、村山富市が首相になったんだよなぁ。まだ政治家に良心があった時代だったなぁ……。

 また、山田がご執心だった衛星放送事業、そのチャンネル権を持っているのが新興宗教団体、過剰な融資で弱体化していく銀行、そして暴力団対策法施行……。40歳以上の人ならば、うっすらあるいは濃厚に刻み込まれているバブル後の日本の姿。まだちょっと浮わついた感覚を残しつつ、この後、大不況による絶望と閉塞感が訪れるなんて予測もしていなかった90年代が、このドラマの中にある。4 Non Blondesの「What's Up?」が流れてきたら、そらもう脳内は90年代へタイプトリップですよって。

 ということで、そこそこ年輪を重ねた人にもいろいろな意味で楽しめる要素が満タン。Netflixの視聴方法がわからん人は、子か孫か職場の若い人に聞け。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月9日 掲載