新日本プロレスの旗揚げ、政界への転身と選挙での落選、新団体の発足と難病との闘い――。挑戦、挫折、復活を繰り返す中で、アントニオ猪木(78)の名はいつしか無二の価値を帯びた。その“金看板”を、旧知の人物に奪われかねない事態が進行しているという。

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 猪木は100万人に数人しか罹らない「心アミロイドーシス」を患い、闘病中であることを昨年、本誌(「週刊新潮」)に告白して波紋を呼んだ。以後これまで、入退院を繰り返してきたが、

「現在は退院し、都内の自宅マンションで療養を続けています。ただ腰も悪く、車椅子から立ち上がるのさえ難しい。自力で風呂やトイレにも入れない状態です」

 とは事情を知る関係者。

「体力の回復に専念してほしいところですが、ここにきて、猪木さんを数年来悩ませている問題が、いよいよ抜き差しならない局面を迎えています」

 その問題とは金銭を巡るもの。猪木は4年前、大阪の浄水器製造販売会社OSGコーポレーションの湯川剛代表取締役会長(74)から「2千万円を返せ」と訴えられていたのである。

 猪木の知人が経緯を語る。

「もう18年も前の話ですが、猪木さんは、ある人物に預けていた新日本プロレスの株を買い戻すため、湯川氏に2千万円を肩代わりしてもらったんです。その際に、湯川氏との間で“覚書”を交わしており、裁判ではそれが決め手となって猪木さんの“不法行為”が認められてしまいました」

 一審の判決が覆り、二審で猪木側が敗訴、最高裁でも上告棄却となり、判決は今年1月に確定。猪木は、湯川氏に遅延損害金を含めて約3500万円を支払わねばならなくなった。

商標権差し押さえ

 先の関係者によると、

「猪木さんは高額な治療費が嵩(かさ)んだ事情もあって、懐具合は逼迫しています。とても3500万円なんて支払えません」

 このため湯川氏側は3月末、猪木のマネジメント会社の株式を差し押さえた。

「狙いは同社が管理する商標権にある」

 とこの関係者は見る。商標権には有名な〈燃える闘魂〉のキャッチフレーズ以外にも〈元気ですか〉〈1・2・3・ダァーッ〉といったお馴染みの掛け声、さらには〈アントニオ イノキ〉というストレートなものもあり、その数は総数96種にものぼる。

「弁理士の試算では、商標権は総計で3億円前後の価値がある。たかだか3500万円ほどの債権で、猪木さんの商標権をすべて押さえるなんて、いくらなんでもやり過ぎです」(同)

 猪木側も弁護士を通じて“超過差し押さえ”を主張。5月には執行抗告したものの、その甲斐なく、8月に差し押さえが決定となった。

 関係者は憤る。

「古いプロレスファンなら憶えているひとも多いと思いますが、猪木さんは新日時代に『リズムタッチ』という家庭用低周波治療器の広告塔をつとめました。これ、他でもないOSG社の製品なんですよ。湯川氏は猪木さんをCMに起用して商品を売りまくり、成功の足掛かりを作ったわけです。本来、猪木さんには足を向けて寝られないはず。よくぞこんな仕打ちを療養中の猪木さんにできたものだと思いませんか」

終生の恩を忘れない

 リズムタッチで成功を収めたOSG社はその後、中国にも進出。今では、高級食パン専門店として躍進中の「銀座に志かわ」もグループ傘下に収めるなど経営を多角化させている。

「に志かわの社長は、猪木さんの側近でした。湯川氏が引き抜いたんです」(同)

 湯川氏は、かつてブログでこう綴っている。

〈全く無名であった私達の会社に、当時からもの凄いスーパースターであったアントニオ猪木さんが、「今、貧乏!将来、希望!!」という私の手紙の一文でCM出演を快諾してくれたこの「恩」を、終生忘れてはいけない〉

 また、こんな記述も。

〈多くの人々が猪木さんの側から離れていった事も事実です。実際私の周辺の人たちも猪木さんとの付き合いを止めるようにという忠告がありました。しかし私は、その意見に耳を傾けませんでした〉

 つまり猪木に対して「終生の恩」があり、自分は決して見限らない、裏切らないとの弁。かくてスポンサーでもある湯川氏は「一時、猪木さんのタニマチのように振る舞ってもいた」(同)というほど二人は蜜月の関係にあった。

 そこにヒビが入ったのは、あることがきっかけだ。

「4年前に猪木さんが、4人目の奥さんとなる女性と入籍してからです。彼女は参院議員時代の猪木さんの公設秘書もつとめ、2年前に他界しましたが、生前、猪木さんとあまりに距離が近い湯川氏を警戒した。湯川氏は、そのことに対する意趣返しよろしく猪木さんに裁判を起こしたんです」(同)

 湯川氏に事実関係を質すと、弁護士を通じて、まずこう回答してきた。

「猪木寛至氏(アントニオ猪木氏)に対して、債権を保有し、(マネジメント会社の)コーラルゼット社の株式の差し押さえを実施していることは事実ですが、(略)詳細については回答を差し控えさせていただきます。(略)猪木氏の『タニマチ』であった事実は(略)ございません」

 さらに取材を進めると、猪木の「実弟」を名乗る人物から突然、本誌記者に電話があり、次のような内容を告げた。

「この件から手を引いてほしい。(猪木)本人が(湯川氏と)話をして“全部終わった”と言っている」

 ならばと再度、湯川氏の弁護士に確認したところ、

「全面的な解決に向けての話し合いを続けていることは事実であり、今月(10月)中に(略)猪木氏との間での協議が行われる予定」

 一方、猪木サイドは、

「現在療養に専念しておりますので、コメントは差し控えさせていただきます」

 病身ながら、なお闘う猪木。事態解決なるか。

「週刊新潮」2021年11月4日号 掲載