4月から前田晃伸会長(77)の肝煎りで設けられたNHKの「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」(平日午後10時45分〜同11時30分)が袋小路に迷い込んだ。午後11時台の番組は視聴率面で大苦戦中なのである。若者にターゲットを絞る戦略は正しかったのか(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

視聴率低迷

 みずほホールディングス元社長・会長である前田会長の大号令で行われたNHKの「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」の新設。

 だが、いまだ存在感が薄く、このゾーンが4月に設けられたことすら知らない視聴者が多いのではないか。

 各番組の視聴率も低迷中。はたして、この戦略は正しかったのだろうか。

 6月6日(月)午後11時台の番組の視聴率は次の通り。カッコ内の数字は順位。

■NHK「阿佐ヶ谷アパートメント」世帯2.3%(5)、個人1.1%(5)、コア(個人視聴率のうち13歳〜49歳)0.4%(5)

■日本テレビ「news zero」世帯6.8%(1)、個人3.7%(1)、コア3.5%(1)

■テレビ朝日「激レアさんを連れてきた」世帯4.9%(2)、個人2.6%(2)、コア2.1%(2)

■TBS「news23」世帯3.7%(4)、個人1.9%(4)、コア1.2%(3)

■テレビ東京「吉祥寺ルーザーズ」世帯1.0%(6)、個人0.4%(6)、コア0.2%(6)

■フジテレビ「突然ですが占ってもいいですか」世帯4.0%(3)、個人2.1%(3)、コア1.2%(3)

※この日の「news zero」は午後11時24分から。「激レアさん――」は同15分、「吉祥寺――」は同6分のスタート。「news23」と「突然ですが――」のコア視聴率は同率――。

 翌6月7日(火)から同10日(金)までの視聴率を見ると、NHKの午後11時台の中核番組は世帯、個人、コアのいずれも4位から6位と低迷している。

 特に低調なのは若い視聴者が観ているかどうかの指標であるコア。「若年層ターゲットゾーン」と銘打ちながら、コアは0.4%〜0.7%にとどまっている。

 テレビ番組は視聴率が全てではない。半面、民放の制作費や諸経費はスポンサーが負担しているのに対し、NHKは受信料によって支えられている。あまりに大外しするのは問題ではないか。しかも「若年層ターゲットゾーン」は視聴者が望んで生まれたわけではないのだ。

Eテレの匂いがする番組ぞろい

 番組内容についてもクビを捻らざるを得ないところがある。たとえば水曜日午後11時からの「ヒューマニエンスQ(クエスト)」は人間というナゾの多い存在を、じっくり深掘りする番組。織田裕二(54)がMCを務めている。

 扱うテーマは「犬はどうして人間と共存する道を選んだのか」「思春期とは何か」「死とは何か」など興味深いものばかり。

 もっとも、この番組は就寝前の若者に歓迎されるものだろうか。それにしては重たい気がする。

 この番組の性別・年齢別の個人視聴率を見ると、男女ともに50歳以上の数字が一番高く、逆に男女ともに20歳から34歳(M1とF1)の数値は1%に届いていない。残念ながら視聴者ニーズと合致していない。

「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」の番組には共通点がある。いずれもEテレ色を感じさせるのである。

 月曜日の「阿佐ヶ谷アパートメント」のテーマの1つは共生。「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」と似ているところがある。

 4月の人事で元Eテレの番組編成責任者だった熊埜御堂朋子氏が、理事・メディア戦略本部長に就いたことが大きいのだろう。実質的な制作トップだ。局内では前田会長の懐刀の1人と言われている。

 熊埜御堂氏はEテレ責任者時代にはギャンブル依存症までテーマにする異色トークショー「ねほりんぱほりん」(金曜午後10時)や「バリバラ」の制作にゴーサインを出した。「攻めてるEテレ」の仕掛け人だ。

 一方、火曜日午後11時からの「100カメ」はドキュメンタリー。特定の場所に100台の固定カメラを設置し、そこにいる人々の動きを観察する。

 これまでにカメラを据えたのは大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のロケ現場や「ネットを活用した通信制高校」、「美容クリニック」など。この番組もEテレのドキュメンタリーを思わせる。教養色の強い良質の番組だと思うものの、放送時間帯と内容が合っているのだろうか。

 木曜日午後11時からの「所さん!事件ですよ」は4月からの新番組ではない。2015年から放送されている「所さん!大変ですよ」が改題された。27年続いた「ガッテン!」は2月に終わったが、この番組は継続した。

 番組では、新聞に小さく載るような事件を深掘りする。例えば「交通事故が多発する魔の交差点」「現役世代の孤独死」「水没した中古車の売買にご用心」。やはりEテレの大人向け教養番組の匂いがする。

 この番組も性別・年齢別の個人視聴率を見ると、男女の20歳から34歳(M1とF1)は1%を大きく割り込み、もっとも観ているのは男女とも50歳以上。「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」という看板と隔たりが大きい。

 最も若者を意識していると感じさせるのは金曜午後11時15分からの「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」に違いない。

 メインの劇団EXILE・町田啓太(31)が、漫画家・イエナガに扮し、複雑で難解な最近の社会問題などについて解説する。その解説にあたっては漫画やアニメやコンピュータグラフィックスを活用する。今日的だ。

 これまでに「6G通信の未来」「サブスク最新事情」「車の自動運転」などについて解説された。やはり現代を感じさせる。

 ただし6月10日の視聴率は世帯2.8%、個人1.5%、コア0.6%で、いずれも横並びで最下位だった。

軽い番組にすべきでは?

 若者にターゲットを絞る戦略は相当難しい。そもそも観ないのだから。戦略を軌道修正すべきではないか。

 また、「プライム帯・若年層ターゲットゾーン」のEテレ化は視聴者の支持を得ているのだろうか。

 民放の場合、最終版のニュースと軽い番組を織り交ぜているのは知られている通り。民放のマネなどしたくないというのが本音だろうが、視聴者の生活サイクルには抗えないだろう。

 NHKは1999年から2010年まで週末の深夜にネタ見せ番組「爆笑オンエアバトル」を放送していた。博多華丸・大吉やおぎやはぎ、バカリズム(47)らをスターにした。名番組だった。そろそろ復活させてもいいのではないか。就寝前に軽い番組を観たい人は少なくないはずだ。

 深夜帯だけではない。いつの間にかNHKからお笑い番組が激減している。今のNHKはお笑い番組を軽視しているように見えてしまう。

 2012年に始まった内村光良(57)の「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」は年に数回の不定期放送になってしまっている。「ママさんバレーでつかまえて」(2009年)や「祝女」(2010年〜2012年)のようなコメディーも消えた。

 視聴者参加型の「着信御礼!ケータイ大喜利」(2005年〜2017年)もない。あって当たり前と思っていた「コメディーお江戸でござる」(1995年〜2004年)も消え、復活することはないだろう。

 お笑いなど軽い番組も重視すべきだろう。求めている視聴者はいるのだから。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部