「カフェで充電していたら店主から訴えられ、100万請求された」「キックボードで接触、後に法外な慰謝料を請求された」「隣家の木の枝が伸びてきて毛虫の被害。弁護士を立てて交渉したら、逆に騒音で訴えられた」。主に身近なトラブル・訴訟を取り上げる弁護士もの「石子と羽男」に身震いしている。明日は我が身と思わせる案件に社会問題(パワハラ、親ガチャ、保活に虐待など)をリンクさせ、コンパクトに濃縮。各話の密度が今期最も高いと思う。

 石子こと石田硝子を演じるのは有村架純。東大法学部を首席で卒業したものの、司法試験の日に悽惨な交通事故を目撃。それがトラウマで4回も落ち続けているパラリーガル。異論も拒否も却下も心地よく言葉で連打。頭が固くて融通が利かない設定だが、そんな堅物には見えず、情けも深い。有村の柔らかさが丁度いい。

 羽男こと羽根岡佳男を演じるのは中村倫也。一度見たら写真のように記憶できる能力があり、高卒で司法試験に一発合格した弁護士だ。セルフプロデュースに余念がなく、見た目や雰囲気で有能な弁護士を装うも、想定外の状況には滅法弱く、フリーズしがち。裁判官の父(イッセー尾形)に検事の姉(MEGUMI)がいる法曹一家で恥かきっ子扱いだ。

 法的根拠や過去の判例を淀みなくしゃべる一方で、おびえるときは小動物のよう。ギャップは倫也の十八番。

 バディものだが、「筋肉馬鹿と天才変人」「人情派と頭脳派」などの陳腐さはない。ふたりとも賢いから無駄がないし、弱さやコンプレックスがあるから優しい。似た者同士の常識人コンビは落ちつくし、民事に最適。

 石子の父・潮綿郎は、弱者の味方でお人好しの弁護士。声も顔も柔和なさだまさしが好演。ただし、石子は微妙に距離をとって敬語で話す。父が弱者の味方をするあまり、母が苦労する姿をずっと見てきたからだ。

 当然、事務所は貧乏で経営は火の車。世の中、弁護士は裕福と思っている人も多いが、実際はそうでもない。弁護士の日常、起こるトラブル、すべてが地続きで自分事と思える。リーガルドラマには珍しい親近感が。

 忘れちゃいけない、みんな大好き・赤楚衛二は、今回恋愛要素として登板。記憶に薄い後輩から依頼人、バイト、ついには有村の恋人に昇格。わらしべ長者か。ただし、転職先の会社はなにやら違法と罪のニオイが。

 もうひとり、私が大好き・おいでやす小田。そば屋の息子だが、調査に客斡旋、小芝居まで、何かと有村を手伝ってくれる善人である。

 個人的には第3話が好き。「ファスト映画」を投稿した学生(井之脇海)が映画会社に訴えられる。倫也が弁護に立ち、執行猶予で済むが、人違いで炎上した映画監督(でんでん)が10年かけて撮った新作が打ち切りに。一番の被害者である監督は謝罪を拒否。「未熟で申し訳ない。どんなに謝罪をされても受け入れることはできません」と、法では罰せられない罪の重さを井之脇に課す。このラストシーン、ずしんという音が聴こえた。法廷の外をむしろ丁寧に描く法律ドラマ、好みです。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2022年9月15日号 掲載