2018年から4年連続M-1準々決勝進出を果たし、今年の活躍も大いに期待される吉本興業所属のお笑いコンビ「シシガシラ」は、脇田浩幸さん(40)の特徴的な“ヘアスタイル”を生かした、いわゆる「ハゲネタ」で注目されるコンビだ。相方の浜中英昌さん(38)と2人で作られるネタは、コンプライアンスが厳しい時代にあって「シシガシラだから許せるハゲネタ」だと評される。

ハゲいじりはタブーなのか

 2019年、M-1グランプリ決勝に出場した「ぺこぱ」は、強い言葉を使わず、ボケとツッコミが対立しないスタイルの漫才が新鮮で、彼らの“誰も傷つけない笑い”が新しいお笑いの形だとも評された。一方、その対極とも言える“いじりネタ”、特に容姿をいじるネタなどは、テレビなどでタブーになりつつある。そうした時代の流れの中で、あまり見られなくなったお笑いの1つが「ハゲネタ」ではないだろうか。

 時代の空気を読んだ絶妙なネタ作りで、果敢に「ハゲネタ」に挑んでいるのが「シシガシラ」だ。

 特徴的なのが「放送禁止用語」というネタだ。実際のネタ動画をご覧頂ければすぐに分かるが、まさに昨今の“コンプラ重視”の風潮に切り込んだメタ的な漫才である。

“看護婦”や”スチュワーデス”と発言する脇田に対し、浜中は「今、コンプライアンス厳しいから言ったらだめなんです」「発信する側の人間だから気を付けないと」とたしなめる。そして「それじゃただのハゲだから、もっと知識を得たハゲにならなきゃ」と諭す浜中に、脇田が「ハゲは規制されてないの?」と嘆くようにつっこむ。

 なぜ彼らのネタは特別なのか。2人に聞いた。

 ***

浜中:最初に脇田さんから「コンビを組もう」って誘われたときは、断りましたね。ハゲてたから(笑)

脇田:「もっとポップな奴と組みたいんだ」って言われてね。

浜中:次に組むのが最後のコンビだって決めてたんで、どうしても一発当てたくて、若い子にウケそうなEXITみたいなコンビ組みたかったんですよ。それがいざ脇田さんと組んでみたら、こんなにしっくりくるとは思いませんでした。

最初は手を出したくなかった

 そうして2018年に結成された「シシガシラ」だが、意外なことに、当初2人は「ハゲネタ」をやるつもりは全く無かったという。

脇田:浜中さんと組む前、僕は男女コンビだったんですけど、男女コンビっぽいネタをほとんどやってなかったし、だからといって「ハゲネタ」をやってたわけでもないんです。それに、ネタ以外でも、舞台上で他の芸人からハゲをいじられることもほとんどありませんでした。

浜中:その中で僕は、楽屋とかで割と脇田さんをいじってた方だったかもしれない。といっても「ハゲ田さん」とかって軽くいじるくらいで、脇田さんも大してツッコまないし、ハゲキャラってわけでもなかったよね。

脇田:そうそう。もちろん、僕はその頃からハゲてはいましたよ。でも、そんないじり方を許さないような尖った人に見られてたのかな。どう見てもハゲてるからこそ、「こいつはいかにもハゲネタやりそう」っていうお客さんの予想を裏切りたいみたいな、天邪鬼なところもありました。だから「シシガシラ」を結成して初めてのネタ見せでも、普通の漫才をやったんですよ。

浜中:そうしたら、ネタを見てくれた芸人から「2人ともこれが最後のコンビって覚悟でやってるんだろうから、そろそろ真正面からハゲネタをやるべきなんじゃないか」って言われて、じゃあやるかって。

脇田:これまで手を出してこなかった「ハゲネタ」だから、やったら多分ウケるんだろうとも思ったけど、「踏み込んじゃっていいのか、この世界」って不安がありました。

浜中:1、2本作ったらネタが尽きるんじゃないかとも思ってましたね。それがいざ作ってみると意外といけて、僕が「世界から見たハゲ」の視点、脇田さんは「ハゲから見た世界」の視点を持ってネタが作れるので、そこが上手いこと回っているんだと思います。

誰もやってない「ハゲネタ」

脇田:ハゲを使った笑いっていっぱいあるから、やるからには今まで誰もやってこなかったことをやろうっていうのは決めていました。こういうネタは誰かがやってる、あれもやってる……となって、隙間を狙っているうちに消去法で出来たのが僕らのネタです。

浜中:実は、脇田さんのハゲをいじったネタかって言われると、そういうつもりで作っているわけではないんですよ。ネタにもよるんですけど、僕はずっと正論しか言ってないのに、それがハゲにとっての常識とはどんどん離れていくみたいな作りの漫才が多い。

脇田:他の容姿いじりと違って、ハゲって誰が見てもハゲだから、お客さんはスッと受け入れられると思うんです。だから僕らの漫才を見た時、最初は、ハゲてる人がハゲてることやるんだって気軽な気持ちで入るんですけど、実はしっかり構成を作った漫才なんで、「あれ? なんかちゃんとしてるな」ってなるはず。ハゲがハードルを下げてくれるのはありがたいので、その分「ハゲネタだったらこんな感じだろう」っていうお客さんの思い込みを裏切りたいと思ってます。

一般のお客さんの方が敏感

 これまで、「ハゲネタ」への批判の声が彼らに直接届いたことは無いという。

浜中:工夫しながらネタを作っているとはいえ、自分たちも批判を食らうかなって思ったんですけど、意外と大丈夫でした。もともとそう確信を持てていたわけじゃなくて、お客さんとかから「シシガシラのネタは笑えちゃうんだよな」っていう反応を聞いて、そんな風に思ってもらえるんだって初めて気づいた感じです。そういう意味では“傷つけないハゲネタ”をできているのかもしれないです。

脇田:例えば、テレビに出るとなったら、事前に「こういうのはNGで」と打ち合わせをしますよね。じゃあ劇場だったら何でも許されるのかというと、そうでもないと思います。今やお客さん1人1人が基準を持ってネタを見ているし、ある意味審査しているという面もある。むしろ、テレビを作ってる側よりも、一般のお客さんの方がどういう表現をしているのかに敏感になっているように思います。

浜中:あと、「子どもが真似していじめに繋がったらどうするんだ」と心配する方がいるかもしれませんが、そうならないようにすごく気を付けてネタを作っています。

脇田:僕らのネタは、すごく真似しづらいネタというか、どこかのフレーズだけ取り出して使う感じのネタじゃないんですよね。ちゃんとフリを作って全体の構成ありきの漫才なので、真似するとしたらネタ全部をやらないと面白さが伝わらない。そこまでやっていじめるなら、もう芸人目指した方が良いですから(笑)

今は良しとされていても……

「シシガシラ」には男性ファンの方が多く、ハゲているファンも少なくないという。

浜中:実は、ハゲの周りの人の方が敏感になって、勝手に気まずくなってるってこともあると思うんですよね。僕らの漫才は、ハゲてる本人があるあるネタとして笑えちゃう感じのネタに出来てるんじゃないかな。

脇田:この前、女性のお客さんが「うちの旦那がハゲてるんですけど、一番好きな芸人がシシガシラなので一緒にライブ行きます」って言ってくれたんですよ。ハゲが嫌な気持ちになるようなネタはやりたくないので、ハゲてる人にファンになってもらうのはめっちゃ嬉しいですね。やってて良かったと思います。

浜中:今、僕らのネタが良しとされていても、何年か先には「ハゲネタ」に対してもっと厳しい世の中になっているかもしれません。そもそも、僕らは誰もやってないところを探して「ハゲネタ」を作っているので、いつかは全部の「ハゲネタ」をやりつくして終わらせたいですね。そうしたらコンプライアンスに厳しい人たちも安心できると思うので。

脇田:他の芸人が新たに「ハゲネタ」をやろうとしても、「それシシガシラがもうやってるから」って言われるようになったらいいですね。僕らが最後の「ハゲネタ」芸人を目指そうと思います。

デイリー新潮編集部